【前回の記事を読む】男は一瞬で豹変した。好々爺然としていたのに、校長の“ある言葉”で鬼の形相になり、雷の大声で「おい、こら」と…

2.そして私は、土建屋に入った。

社長は元々、地元の大地主で、農業が本業だったが、四十を過ぎた頃、建材業を始めたところ、バブルの前という時代のおかげもあって、三年もしたら、結構な規模の商いをするようになっていた。

そこで勧められるがままに株式会社にして、営業部長に、大手の建設会社を退職したばかりの山田という男をスカウトした。

山田の営業力は確かで、一年で、また会社の業績は50%上がった。その頃病気がちだった社長は、農業の仕事もあったので、殆ど、建材業は、山田に任せきりになっていた。

ところがこの人の好さそうな山田が抜け目のない男で、ある日気が付いたら、書類が書き換えられていて、社長が追い出される段取りがすっかりできていた。

弁護士に相談したが、山田は法律に詳しく、裁判しても勝てないと、宣告される。それで熊沢社長を通じ、統山さんに頼み込んだというわけである。

しかし、実際に統山に会いに行って、それまでの詳細を述べたが、例によって統山はオウオウと言うばかりで、最後に「わかった」と一言言って、終わり。

後日、連絡するとも具体的なことは何も言わないので、社長は期待外れで、当てにならないと思っていたのだが、一週間後、統山から電話がくる。

「野郎どもが夕飯を食わせる、というから貴方も一緒に、どうですか」と言う。「野郎」と言うのは「山田達」だと思ったので、「私も一緒でいいのですか」と聞き返すと「かまわんさ」と一言。

やはり「野郎」というのは、山田達ではないのかな、と思いながら、T市の中心街にある料亭に行ってみると、大きな広間にお膳がズラリと並んでいる。

山田もいて、社長が来るとは思っていなかったのか、ぎょっとしたような顔をしていた。しかし、統山は、自分の右に社長、左に山田を座らせ、その他、社長を裏切る形となった幹部職員、その他、社長の知らない、妙な目つきの男たちにも、それぞれ座るように目で促した。

「ここはお酌をする者はいないのかね」

統山が言うと、隣で既に気圧されている山田が、やっと言った。

「次の間にいます。呼びましょうか。」

「ああ、呼び給え」

若いコンパニオンが、十人ばかり座敷に入って来た。一渡り杯に酒が注がれると、統山が、杯を挙げて、乾杯を促して言った。

「おめでとう!」

それに釣られ、山田が「おめでとう」と言うと、コンパニオンも一斉に続いた。

「おめでとうございます」

すると、事態が呑み込めない、他の客も口々に「おめでとう」と言い出した。そしてそのまま、和やかな宴会となってしまった。三十分くらいしたところで、統山が、徐に口を開いた。