「仲良くするのが一番だよ。山田君」
統山の巨体を包むカシミヤの背広に触れる度に、びくっとしていた山田は、作り笑いしながら、何度も頷いていた。統山は、正面を向いたまま、いきなり吠えるように言った。
「誰か文句のあるやつはいるか!」
全員の動きが止まり、隣で、山田がお膳をひっくり返し、倒れていた。凄い目つきで、一通り、見渡す統山に逆らうものはいなかった。
「それじゃ、改めておめでとう」
統山がトーンを変えて、穏やかに言うと、一同ほっとしたように、「おめでとう」と口々に言って、また和やかな宴会に戻り、件の問題は解決していた。
「統山先生の威光は、大したものだったよ」
梅山社長の話は、それで終わったが、私は益々、統山一郎に関心を持つようになる。しかし会社を辞めるまで、それから一度、葬式の時、遠くから見かけただけで、残念ながら、それ以上会うことはなかった。
今思うに、私が梅山社長や、次に取り上げる春夫さんなどの話を聞いて感心し、統山さんの話を相手構わずするので、社長が面白く思わなかったのだろう。
それと同時に、紅葉会の総帥を崇拝しかかっている、世の裏を知らぬ単純な私に危険なものを感じ、その接点を潰したのではなかったろうか。
それにしても、私は「土建屋物語」を書いているのではない。本来、「好きだった」フランス文学を止めるに至った経緯を説明できれば十分な筈だった。しかし、ここまで書いたら、やはり春夫さんのことを書かねばならないだろう。
三山春夫は、先ほど話した三山建設社長、義夫の兄で、詳しい事情は知らないが、家業の土木建設業を嫌って、弟に譲り、本人は東京に出て、芸人となった。
本人は「由利徹」は良く知っている、と言っていたが、無論、本当かどうかは分からない。ただ何かの拍子に、興が乗ると、酒は飲まないのに、酔ったように一時間でも二時間でも、周囲を爆笑させながら、話すことができたので、芸人という経歴を疑うものはいなかった。
例えば、生意気な芸人がいると、そいつの舞台の時、何人かで最前列に陣取り、口をオ×××コに見立てるようにマジックで書いた顔で一斉に百面相をするのだという。舞台で笑い始めると、絶対、止まらない、と彼は言っていた。
あるいは、レース前のT競馬場の騎手の控えの間は、関係者以外、絶対入れないのだが、若き日の統山一郎と二人で、乗り込んで、「色々相談」したところ、万馬券、連発で大儲けしたなどという嘘か本当か分からない、話もあった。
また女性同伴で、温泉旅行に出かけたところ、金がなくなり、地元のゴロツキに女を「売り飛ばして」、その場を凌いだなどという話もあったが、T市に戻り、しばらくすると女が逃げてきて「ひどいことをする」と口説かれ、尚、そのあとゴロツキもやってきて、揉めに揉めた、という話もあった。
次回更新は6月15日(月)、11時の予定です。
【イチオシ記事】「抱き締めてキスしたい」から「キスして」になった。利用者とスタッフ、受け流していると彼は後ろからそっと私の頭を撫で…
【注目記事】生徒を下校させた後、すぐにラブホテルへ…まだ2回目の彼に、早く触れて欲しい。2人で歯磨きした後、優しくキスされて…
ゴールドライフオンラインは、表現者を応援するウェブメディアです。
生身の人間が紡ぐリアルな言葉だからこそ、読者の心を揺さぶる力があると確信しています。
あなたも、"表現者"になってみませんか?
ゴールドライフオンライン編集部:glo_henshu@gentosha.co.jp