あれから幾年月……。あのときは、成人を迎えたばかりの娘に、私の大好きなイタリアの街を案内しようと企画した旅だったのに、二週間のイタリア旅行中、ヴェローナに一泊もできなかったのが悔やまれました。
「私、一番好きなイタリアの街はどこかって聞かれたら、ためらわずヴェローナって答えると思うわ。おしゃれなカフェや素敵なお店がたくさんあるのに… …。それなのに駆け足で通り過ぎるなんて……」
しばらくの間、娘は恨めしげにぶつぶつ言っていました。
愛のスポットとして人気の高いジュリエットの邸宅には、蔦のからまるロマンチックなバルコニーがありますが、それは映画や芝居のセットでおなじみのものです。このバルコニーから身を乗り出してジュリエットはロミオと語りました。あの場面は悲恋物語のクライマックスです。
私たちもジュリエット像の前で写真を撮りました。等身大といわれるジュリエット像と娘の身長が同じなのにびっくりしました。娘は当時やっと二十歳になったばかりで、私から見るといつまでも子供なのですが、背たけだけは立派な女性で、娘にとっての恋は決して単なる夢物語ではないことを実感させられたのでした。
広場から西に少し歩くと、市街を囲むようにアディジェ川が流れていて、川べりの散歩もおすすめのコースです。古城のカステルヴェッキオが見えてきて旅情はますます掻き立てられます。
「もう時間はないの? そんなのってないよ……」
娘の声が今でも私の耳によみがえってきます。
試し読み連載は今回で最終回です。ご愛読ありがとうございました。
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