【前回記事を読む】隣の席に座った家族の装いを見て「やっぱり」と思った。父親はカジュアルな服装で席に座っていた。しかし、彼の足元を見ると…

6 青春の思い出をたどる ─恋の街ヴェローナ─

ヴェローナといえば誰でも頭をよぎるのがシェイクスピアの悲恋戯曲『ロミオとジュリエット』でしょう。この街にはジュリエットの生家があることでも知られています。

ローマ帝国時代から栄えた世界遺産のこの街は、一年中観光客の途切れることはありませんが、特に夏は多くの観光客で賑わいます。

理由は、毎年夏に開催されるアレーナ(古代円形劇場)でのオペラフェスティバルで、世界中のオペラファンが押し寄せ、熱狂の渦になります。アレーナはローマのコロッセオよりはるかに保存状態もよく、一万四千人の観客を収容できるといわれています。

旅行会社を経由せず、気ままに楽しむ個人の旅は、自由を満喫できるのですが、私がぜひ観たいと思う有名なオペラの演目は、個人でチケットを取るのはかなり難しいのが現実です。

ヴェローナは紀元前1世紀に誕生した街で、いわば二千年の歳月をくぐり抜けて現在に至った要塞都市です。観光都市として押しも押されもしないイタリア屈指の街で、街の隅々が見所満載です。特にアレーナのある広場の近くにはカフェやレストランが軒を連ねています。私には何となくパリの繁華街のムードが感じられました。

オペラも重要な見所の一つですが、私にとってヴェローナの街自体、どことなくロマンの香りがしてきます。青春の追憶が散りばめられているせいなのかもしれません。

まさか、ジュリエットの亡霊に恋の魔法をかけられたわけではありませんが、私にとってヴェローナは恋の街ということになるのでしょう。交通の便も悪くなく、ミラノから急行で一時間半ほどで行ける距離ですが、東京から発つときには、ミラノよりはローマに飛ぶほうが多く、百回近いイタリア訪問の中で、ヴェローナはまだ二回だけ。

その二回目は娘と一緒の旅。スケジュールの都合で駅にスーツケースを預け、わずか三時間ほどで慌ただしく観光しました。何か忘れ物をしたような、心残りする急ぎ旅でした。

その前にヴェネツィアに三泊していたので、娘から「あそこに三泊するくらいなら、ヴェローナにせめて一泊でもしたかったわ」と言われ、「確かに」と納得。私は自分のプランのミスを大いに後悔した次第です。

賑やかな目抜き通りには若い女性の心を引き付ける、素敵なショップが並んでいます。

「もう、時間はないの?」

娘は名残り惜しそうな目つきで私を見るのです。