YGのロゴが入ったキャップの天辺に、ポンと手を置いて笑う。隣にいる妹らしき少女にボールを手渡すのを待って、勇気を出して尋ねてみる。

「怒っていらっしゃらないんですか」

彼は、少年にも女の子にも、わたしにも穏やかな目を向けてきた。

「怒っとるように見えたかね。この顔は生まれつきでね。誤解があったのなら謝る。ほれ、このとおり」

ひょうきんな仕草で軽く頭を下げた。百八十度転換した状況を、どう理解すればいいのだろう。

「じゃ、ボールを打ち込んだこととか、望遠鏡を汚したことは、許してもらえるのですか」

「あんなゴムまりが当たったからって、どうなるものでもあるまい。鏡の汚れも大した問題じゃない。クリーニングくらい自分でもできるし」

裏木戸に顔を向けて彼は続ける。

「あれほどの空き地はこの近所でも珍しくなった。どこもかしこもマンションか金儲けの駐車場になっちまったからな。いっそ公園になればいいと本心では思っとったんだ」

「じゃ、怒ってないの? おじさん」

安堵したのは子供たちも同じらしい。表情から悲愴さが消えた。

「では、わたしを呼んだのは、どのような……」意図を持っていたのか、やはり確かめずにはいられない。苦情を訴えるつもりはないが、知らないままだと尻の据わりが悪い。

「気を悪くせんでくれ。正直に言えば、誰かと話したかった」

ああ、そういうこと。

招じ入れられた時から感じていた、この家に漂う茫とした寂寥感はそれだったのだ。この家の空気は冷たく沈殿していて、留守宅とは違う寒々とした雰囲気に満ちている。人が暮らしていれば当然ある匂いというものが、これっぽっちも感じられないのだ。