程なく、畳一畳ほどのケージが完成し、その中にトイレトレーを置くと、半分ほどのスペースしか空かなかった。そこへベッドを置き、ウォーターディッシュをケージに取り付けた。
そして仕上げに、隣の和室からすっかり使わなくなったベンチ(腹筋台)を持ち出し、ケージの前に置き、腰を下ろした。
「やっとでぎだ(できた)。……疲れだで(疲れたよ)」
「お疲れ様。大きいタイプ、買って正解だったね」そういって、妻はビーグルをキャリーから取り出し、ケージの中に入れた。すると、トコトコと歩き、大人しくベッドに寝そべってくれた。「アハハ! きっと、騒ぎすぎて、疲れたんだね」
――そうだよな、お前だって、いきなり知らないところに連れてこられたんだ。興奮して当たり前だよな。今夜はゆっくりお休み。
我々はビーグルを起こさないよう、物音に気をつけながら後片付けを終えると、テーブルの上にコンビニで購入した夕飯をひろげた。そして、妻は弁当に箸をつけ、私は缶ビールを一気に煽った。
長く忙しない一日だったが、今日の出来事は一生忘れないだろう。「取りあえず三日間のお付き合いだけど、オチビちゃんの名前、どうする?」
「それなば、あった方いいべ。古田くん、ってのは、どうだ?」
「アハハ! それは古田投手に失礼でしょ」
「やっぱり、んだが(そうだよな)」
明日高エースの名前で冗談をいえるほどになったのは、「早くもビーグル効果か?」と、妻と二人、笑いながら遅い夕食を楽しんだ。
明日は、いよいよ決勝戦。相手は甲子園常連の歴代優勝校、相手にとって不足はない。優勝記念のビーグルも準備完了、思う存分戦ってくれ。私は海老反り校歌熱唱が楽しみで仕方がなかった。
やがて、風呂から上がるとベンチに腰掛け、ビーグルと話をしながら寝酒を引っ掛けた。
「へばな(じゃあな)、まだ明日。仲良ぐしてけれな」
「お父さん、お薬は? 飲まなくても大丈夫?」
そうなのだ。不眠症になって以来、妻を子供部屋に追いやり、睡眠薬に頼っている。でも、今夜は飲まなくても眠れそうな気がした。「もし眠れねがったら、あどで飲む(後で服用する)。心配、いらねがら(いらないから)」
私は二階の寝室のベッドに横たわり目をつぶった。……やっぱり、駄目かな。少し不安だったが薬は飲まず、耳鳴り対策に音楽プレーヤー(携帯式)のタイマーを三〇分にセットし、イヤホンをつけた。すると、ロックバラードに始まり、ジャズなど次々とお気に入りの曲が流れ、やがて眠りについた。
次回更新は6月3日(水)、7時の予定です。
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