【前回の記事を読む】「初めが肝心です。毅然とした態度でしつけをして下さい。」と言われたのに…つぶらな瞳で見つめてくるビーグルが可愛すぎて…

二日目 断薬

昔、娘たちのために購入した猫とカバのぬいぐるみ。必要ないからと妻が昨夜押入れから引っ張り出してきた。すっかり気に入ったのか、猫のぬいぐるみに夢中で噛み付いているマーカス。そして、時々気がついたように私にじゃれついてくる。昨日まで、一人で過ごしていた時とは明らかに違う、ゆったりとした時間が流れていた。

いつのまにか、正午になっていた。私はマーカスをケージに戻し、昼食の準備を始めた。準備といっても、オカズと味噌汁を温め直すだけの作業だが。

テーブルにご飯、味噌汁、オカズを並べた。正面にマーカスの姿が見える。一日二食の彼に昼食はない。

「ごめんよマーカス、私だけお昼を食べて」ケージの中でちんちんしている彼に話し掛けながら、食事を進めた。不思議なことに、一人で食べていた昨日より、ずっと美味しく感じた。

『人は楽しく生きていくためには、誰かと食事をすることが最も効果的です』名前は忘れたが、著名な心理学者のそんな言葉を噛みしめていた。

私が食べ終わった食器を片付けている最中、マーカスは私の足に絡みついて離れない。こうなったら淋しがり屋同士、ルールは無視して仲良くしよう。こうして私は、着実に親馬鹿道を真っしぐらに歩み始めていた。

やがて、いよいよ甲子園の決勝戦が始まる時間となった。相手は強豪だが、下馬評では明日高にも十分勝機はあるとのこと。

期待に胸をふくらませ、テレビに見入った。残念ながらトイレの中にオシッコが中々上手くできないマーカス、いまのところケージの中に収まっている。

主審の右手が上がり、プレーボールが宣告された。一回裏、相手チームの攻撃で、早くも動きがあった。

一番、制球が定まらず、フォアボール。続く二番、真ん中に入った甘いストレートをライト前にヒット。これでランナー一、三塁となった。

すると、やっとエンジンが掛かったのか、古田投手が三番、四番を連続三振に打ち取った。これでツーアウト。あと一人アウトでチェンジと思いきや、続く五番、またもやフォアボール。ついに満塁になってしまった。

古田投手、疲れが出たのか力んでいるようだ。続いて六番、初球。

――あっ! ……やってしまった。

手が滑ったのか、完全な暴投。キャッチャーが後ろにそらしているその隙に、三塁ランナーがホームに帰り一点先制。うつろな目をした明日高エース。こんな古田投手は、初めて目にした。

その後、相手チームの攻撃は止まることなく、五回の時点で一〇点以上の差がついた。そして八回裏ツーアウト、ランナー一、二塁で古田投手ついに降板。リリーフピッチャーが後続を抑えて、チェンジとなった。

いよいよ最終回、表の攻撃。明日高が意地の一点を返すも、結局大敗してしまった。