【前回の記事を読む】生後3か月のビーグルに惹かれたが、『相談中』の貼り紙…。諦めて店を後にしたものの、夫はハンドルを右に切り始めて…
一日目 中年ニート
とうに日は沈み、夕飯はコンビニ弁当で済ませることにした。
途中、膝にのせたキャリーの中で、突然ビーグルが暴れだした。不安なのか“クーン、クーン”と鼻声を鳴らし、中を行ったり来たりしている。
「三〇分毎に様子を見るようにいわれたから、コンビニに寄るわね」
丁度、半分ほど走ったところで、妻はハンドルを切り、コンビニの駐車場に滑り込んだ。 私は助手席を降り、キャリーの中を覗いてビックリ。いきなり洗礼を受けた。
中に敷いていたシーツは剥がされ、鼻をつく臭い。片付けようと、私は扉の金具を外した。すると大人しかったビーグルがいきなり飛び出してきた。慌てて捕まえようとしたが、すばしこい動きですり抜け、駐車場に飛び降りてしまった。
「あっ! 待で、こらぁ!」
幸い車が通らなかったから良かったもの、思わぬワンパク振りを早くも披露した。店先に走り込んだところをやっと捕まえ、車に戻ると妻が泣き笑いの顔を浮かべていた。
「なした(どうした)? 可南美」
「お父さん、車の中が凄いことになっている」
キャリーを飛び出した際、一緒に中のシーツが助手席にズレ落ち、車内一面に排泄物が飛び散っていた。
「……やられだな。ポーカーフェイスもいいどごだ(ところだ)」
車内灯を頼りに、私はウエットティッシュで汚物を拭い取った。当の本人は澄ました顔で、地面に置いたキャリーに収まっている。どうやら、我々に現実の厳しさを教えてくれたらしい。
「ついでだから、お弁当買ってくるね。何でも良い?」
食欲は無いがビールは飲みたい。明日高の決勝進出の祝杯を上げねば。
私は「弁当は要らないから、ツマミになりそうな惣菜を」と頼んだ。やがて、コンビニ袋をぶら下げた妻が戻り、出発進行となったが、私は急にアイスクリームを切らしていることに気がついた。直ぐに戻るからと言い残し、店内に駆け込んだ。
「あれ?」いつ以来だろう、コンビニに入るなんて……。
私は知っている顔が店内に無かったことに安堵しながら、急いでマルチパックのアイスを手にレジに向かった。
「オチビちゃん、お父さんのこと、お願いね」
車に戻ると、妻がビーグルにそう話しかけていた。すると「クーン」と返事が……。「コイツわかっているのか?」思わず妻と顔を見合わせた。
八時すぎ、我が家にやっと到着、早速トランクから荷物を玄関先に下ろした。そして、それをリビングに運び込み、妻と二人でケージを組み立て始めた。みるみるうちに汗が噴き出し、久しぶりに心地よい疲労感に包まれた。