【前回の記事を読む】無職引きこもりの私は、初めて行くペットショップの光景に目を丸くした。お目当ての仔犬は写真で見るよりもずっと…

一日目 中年ニート

「この犬、寝でばっかりだな。触られねんだが?」

やはり気になる。再びビーグルを前にして、私の心は揺れていた。他の仔犬と違い、彼は媚を売っていないように思えた。あくまで、私見にすぎないが。

「すみません、このビーグル、触ることなんてできます?」

私の要望を妻が女性スタッフに伝え、ビーグルを生まれて初めて抱きかかえた。

まだ生後三ヶ月あまり。二キロ弱の肉体は弱々しく、甘えるように私の身体(からだ)にしがみついてきた。

「へぇー。この子、人見知りなんですがね。どうやら、ご主人のことが気に入ったようです」

そうスタッフに褒められ、私は思わず笑みを浮かべ、顔を舐めてくる仔犬に心が惹かれていた。

「この犬なば、めんこいがら人気あるべな」

「そうですね。正直、ビーグルはすぐに決まりますね」

「『相談中』って、なんだべ? 商談中ってことだが?」

「ええ。前金を頂き、一週間の間、預かっている状態です」

ふと、女性の胸元の名札、チーフの文字に目が止まった。どうりで、セールストークが上手いわけだ。それにしても、こうして知らない人と普通に話をしたのは、いつ以来だろう? 私は懐かしい感覚に浸っていた。

 やがて我々は、一旦ペットルームの外に出ることにした。

「どうする? どっちにしても、今日決断するのは無理だよね」

「うーん、何とそが(どうしよう)……。他に店、ねんだが(ないのか)?」

優柔不断な私に振り回され、妻は来た道を戻り、五キロ先のショッピングモール内のペットショップに向かった。

しかし、着いてみてがっかり。先程より数は少なく、私がいうのも変だが、全体的に仔犬たちに元気が感じられない。

「あで(あてが)、外れだな」

「帰ろっか、明日も早いし」

結局、車に乗り込み、帰路に就いた。モール内の駐車場を抜け、国道に差し掛かった。すると、前方の交差点でゴールデン・リトリバーと散歩している中年男性が目に付いた。白い杖を突き、犬と話をしながら白い歯がこぼれている。

「あら、盲導犬? この辺じゃ、珍しい光景ね」

と可南美が呟いた。

「大きいから、餌代も馬鹿にならないだろうな」

「んだな。まさが盲導犬さ、昔みでに残飯食わすわげにもいがねがらな」

とネガティブな私。その光景に本当は興味を引かれていたが、つい良くない方に物事を持っていく。

「世話ばかりでなぐ、金もかがるしな」

と、高価なドックフードを始め、昨今のペット事情の情報の中から、マイナスなことばかり並べ立てた。

「わかった。お父さんの散歩姿見たかったけど、私たちには高嶺の花ってことね」

信号が変わり、妻は前進すると右にハンドルを切った。そのまま、国道の一本道を進む。

時間通りなら七時前には我が家に到着、のはずだった。

「ごめん、可南美。もう一回だげ、戻ってけねが」

私はさっき見たビーグルの面影がちらつき、口をついて出た。

「えっ、どっちに行けばいいの?」

我々は結局、一軒目のショップに再び向かった。

駐車場に着くと、私は車を降り、一人で店内に駆け出していた。

――いた。ビーグル犬。