私が釘付けになっていると、チーフさんがニコニコした顔で近づいてきた。
「チーフさん、ビーグルだども俺でも飼えるべが? えのなが(家の中)で飼うなんて難しいべな」
「慣れるまで、少し戸惑うと思いますが、大丈夫ですよ。特にこの子は大人しくて他のビーグルより飼い易いでしょう」
――この人の笑顔を信じて飼ってみようかな? そう思うと、居てもたってもいられなかった。
「どうされます? 慌てなくても、宜しいかとは思いますが」
「前金を支払えば、預かってもらえるのですね」
いつの間にか妻が横に居て、口を挟んだ。
「手続きをお願いします」
では、こちらへ。と、妻とチーフは受付カウンターに移動した。
私はといえば、ビーグルを抱き抱え、もはや首ったけ状態。
程なく、妻が戻ってきた。
「お父さん、チーフさんが『三日間のホームステイということなら、今日引き取っても構わない』って。引き渡しの準備に少しだけ時間が掛かるけど、どうする?」
別料金を払えば、オーナーとペットが相性を確かめる、お試しサービスがあるとのこと。私に異論があるはずもなく、ビーグルを一旦ルームスタッフに預けた。
そして、妻は手続きのためカウンターに行き、私は別のスタッフに教えられながら必需品を購入した。
ペットケージにキャリー(ペットを運ぶためのキャリーケース)、トイレトレーにシーツ、そして、ペットフードとエサ入れ等々であっという間に五万円もの出費。……もはや、後戻りはできない。
やがて買い物を終え、手続きを済ませた妻と合流した。
「お父さん、お薬飲んだ?」
「あっ、忘れでらった。飲まなぐでも、いいんでねぇが」
私は特に夕方、耳鳴りがひどくなり、身体がグラつき体調を崩す。そのため、かかりつけの総合病院の精神科から安定剤を処方してもらっていた。
三人目の主治医からは、「必要な時、一日三錠までなら服用しても安全です」といわれている。不思議なことに、今日はその“必要なとき”は訪れなかった。
「いま爪を切って、ブラッシングをしています。スタッフ一同、あの子に特別な思い入れがあるようで、別れを惜しんでいる最中です」
車に購入品を積み終わり、キャリー片手にビーグルを迎えに行くと、チーフさんが少し困ったような顔をした。
「すみませんが、もう少しだけ、待って頂けませんか? 只今、念入りにシャンプーしていますので」
やがて、石鹸の香りをさせビーグルが戻ってきた。血統書は二カ月ほど待たなければならないとのこと。早速、キャリーの中に入れ、我々はショップを後にした。
次回更新は5月27日(水)、7時の予定です。
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