「幸い、ワシには子どもがいない。命を差し出すことによって子孫もろとも存在が消えるといったことにはならん。アンタが渋る理由などないだろう」

「それはそうですが……」

「なら聞くが、アンタが過去取引してきた中で子どもや孫がいながらも命を差し出した者はいたか?」

「決して少なくはありません。なにせ我々を呼ぶのは全てを投げ出してでも救いたい者がいる人ですから」

「だろうな。そんな状況で冷静な判断ができるものは少ないだろう。とはいえ死神の力を頼る者が増えれば少子高齢化や人口減少が加速する。命を救おうとすればするほど国家の衰退に繋がるとは難儀なもんだ」

もし仮に景浦に子どもと孫が二人ずついた場合、命を差し出すと合計で五人の人間がこの世から消失してしまう。子孫が多ければ多いほどその数はネズミ算式に増えていく。

「私を頼る人が増えると、この国は遠くない未来に崩壊します」

「もう崩壊しかけているようなもんだ。今も昔も老人が若者を殺す国なんだからな。この国に未来はない」

「……」

「ワシは良三から若菜を託されたんだ。軍人らしく散華したアイツに」

「……」

「気の毒だが、あの火事の原因はアイツにある。アイツのお人好しな部分が招いた惨劇なんだ。それを知ったら良三は成仏できないだろう。だからワシが救いたいのは若菜だけじゃない。良三の名誉を守りたいんだ」

そして景浦は頭を下げ「頼む。このおいぼれに死に場所をくれ」と懇願した。少ないが周囲には人の目があり、否が応でも注目を集めてしまう。

「頭を上げてください」

「アンタが頷いてくれるまでテコでも動かん。頑固な年寄りだと笑いたければ笑え」

ハッタリでなければ強がりでもない鋼の意志を見せつけられた課長は居たたまれなくなった。死神になって初めて見るタイプの人間だ。景浦は本当に頭を下げ続けるつもりだろう。それこそ、根を張る樹木のように。

「若菜ちゃんに……何を託しますか」

次回更新は5月30日(土)、11時の予定です。

 

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