終章 今日も、笑顔で

母が亡くなってから、5年が過ぎた。私は37歳になっていた。

日常は、穏やかに流れていた。仕事、趣味、友人との交流。母がいなくなった悲しみは、完全には消えなかったが、日常の中に溶け込んでいた。

毎朝、仏壇に手を合わせることから一日が始まる。

「おはよう、お母さん。今日も一日、頑張るね」

毎晩、仏壇に報告することで一日が終わる。

「お母さん、今日はこんなことがあったよ」

母との対話は、今も続いている。母は答えてくれないけれど、私は話しかけ続けている。それが、私にとっての日常になっていた。

庭の花は、今年も美しく咲いた。母が植えた花たちは、世代を重ねながら咲き続けている。

「お母さん、今年もチューリップがきれいに咲いたよ」

私は庭に出て、花に水をやりながら話しかけた。

「紫陽花の蕾も膨らんできた。もうすぐ梅雨だね」

風が吹いて、花が揺れた。まるで母が頷いているようだった。

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