【前回記事を読む】母が亡くなってから、3年が過ぎた。私は35歳になっていた。亡くなる前に一緒に行ったある場所を訪れることにした。
第十八章 記憶のなかで
「わあ……」と声を漏らした母の姿。花に顔を近づけて、深く息を吸い込む母の姿。「来てよかった」と何度も言ってくれた母の声。
「お母さん、また来たよ」
私は呟いた。
「一人だけど、来たよ。お母さんと見たラベンダー、また見に来たよ」
涙が溢れた。
「きれいだね、お母さん。あの時と同じくらい、きれい」
風が吹いて、ラベンダーが揺れた。まるで、母が答えてくれているようだった。
私はラベンダー畑の中を、ゆっくりと歩いた。
3年前、母と一緒に歩いた道。同じ場所に立ち、同じ景色を見た。
でも、感じ方は違った。3年前は、母と一緒にいることの幸せを感じていた。今は、母がいないことの寂しさと、母との思い出の温かさを、同時に感じていた。
悲しいけれど、幸せ。寂しいけれど、満たされている。
矛盾した感情が、胸の中で混じり合っていた。
「お母さん、私ね、幸せだよ」
私は空を見上げながら言った。
「お母さんがいなくて寂しいけど、でも、幸せ。お母さんとの思い出が、私を支えてくれてるから」
青い空に、白い雲が浮かんでいた。母が好きだった、北海道の広い空。
「ありがとう、お母さん。私を産んでくれて、育ててくれて、愛してくれて。本当に、ありがとう」