カフェのテラス席に座り、ラベンダーソフトクリームを食べた。

3年前、母と一緒に食べたソフトクリーム。同じ味。甘くて、少しだけラベンダーの香りがする。私は2つ注文していた。一つは自分用、もう一つは母の分。

「お母さん、一緒に食べよう」

空いた席に置いたソフトクリームに向かって、 私は話しかけた。

傍から見れば、おかしな光景だったかもしれない。でも、私にとっては、大切な時間だった。

「おいしいね、お母さん。前に来たときと同じ味だね」

ソフトクリームは溶けていく。でも、私は構わなかった。

「また来ようね。何度でも来ようね」

帰りの飛行機の中で、私は窓の外を見つめていた。

眼下には、雲海が広がっていた。3年前、母が「すごい」と歓声を上げた景色。

私はバッグから、一冊の本を取り出した。「記憶のなかで生きる――杉山悦子の人生」。母の自叙伝だ。ページをめくると、母の言葉が綴られていた。

「恵美は、私の宝物。あなたを産んで、本当によかった」

私は本を胸に抱いた。

母は亡くなった。肉体的には、この世にいない。

でも、母は生きている。私の記憶の中で、この本の中で、母は今も生きている。そして、私が母のことを語り続ける限り、母は存在し続ける。

「人間は3度死ぬ」という言葉を、私は思い出した。

3度目の死は、 その人のことを覚えている人が誰もいなくなったとき。

私が生きている限り、母は3度目の死を迎えない。私が母を覚えている限り、母を語り続ける限り、母は生き続ける。

それは、私にとっての希望だった。