「完璧を目指さないこと、でしょうか。イライラすることもありました。怒ってしまうこともありました。でも、それを自分で責めすぎないようにしました」

「難しいですね」

「そうですね。でも、大切なのは、怒った後にちゃんと向き合うことだと思います。謝ること、許すこと、そして、また一緒に笑うこと」

彼女は涙ぐんでいた。

「私、最近母に辛く当たってしまって……自己嫌悪で……」

「わかります。私もそうでした」

私は彼女の手を握った。

「でも、お母様は、あなたのことを愛していますよ。それは、病気になっても変わらないと思います。だから、自分を責めすぎないで」

彼女は泣きながら頷いた。

その日から、私は定期的に認知症カフェに参加するようになった。

自分の経験を話すことで、誰かの役に立てるかもしれない。そう思ったのだ。

参加者の中には、まさに今、介護の真っ只中にいる人がいた。疲れ果て、孤独を感じている人がいた。そんな人たちに、私は自分の経験を伝えた。

「一人で抱え込まないでください。助けを求めていいんです」

「完璧じゃなくていいんです。できることをできる範囲でやれば、それでいいんです」

「怒ってしまっても、自分を責めないでください。大切なのは、その後どう向き合うかです」

母との日々で学んだことを、私は伝え続けた。

ある参加者から、こんなことを言われた。

「杉山さんのお話を聞いて、救われました。母との時間を、大切にしようと思えるようになりました」

その言葉を聞いて、私は泣いた。

母との日々は、決して無駄ではなかった。私が経験したことが、誰かの役に立っている。母の人生が、誰かの人生に影響を与えている。

それは、母が今も生き続けている証拠だと思った。