「あの男、全然変わってない!」

吐き捨てるように老刑事は言った。私は老刑事に尋ねた。

「『あなたに仕事を教わった』と言ってましたよ?」

その場を沈黙が支配する。老刑事はまたも溜め息をつく。老刑事は言い訳をしながら話し出した。

「確かに〔あの男〕に仕事を教えたのは俺だ。俺の刑事人生で学んだ事を〔あの男〕に叩き込んできたつもりだった。しかし、誘導尋問までしてるとは!」

老刑事は少しの沈黙の後、ポツリと言った。

「育て方を間違えた! 俺の責任だ……」

老刑事はまるで、できの悪い子供を持った親のような言葉を吐き出す。だが私は老刑事をフォローするかのように言葉を紡ぐ。

「でも〔あの男〕の検挙数は所轄内外でも有名ですよ! あなたが鍛え上げたからでは?黒崎さん」

黒崎と呼ばれた老刑事はその言葉にも嬉しくなさそうだった。

「片倉! 不祥事が相次ぎ警察への風当たりが強いのに、結果を出しているからといって違法な捜査手法は看過できん!」

片倉と呼ばれた私は、この愚直で真っ直ぐな黒崎刑事が〔あの男〕を育てたという事実が面白いと思っていた。黒崎刑事はその性格と実直な仕事振りで皆の人望を集めていた。

〔あの男〕とは正反対だ……。

私はコーヒーを飲み終え、空になった缶をゴミ箱に放り込んだ。黒崎刑事が私を見て

「片倉! 〔あの男〕は何処にいる!」

黒崎刑事は忌々しそうに言葉を吐き出す。私はいつもの場所にいることを知っていたので

「宿直室で昼寝してます」

とだけ答えた。黒崎刑事は間髪を入れず

「休憩が終わったら、『俺の所に来い!』と伝えろ!」

私は

「了解です!」

と短く答えると休憩室を後にした。

次回更新は5月4日(月)、16時30分の予定です。

 

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