【前回記事を読む】ライブ会場にあるまじき“あるもの”を見た、という通報が入るも…現場には血痕すら残っていなかった。狂言が疑われる中…

# 2 #

私は休憩室を出て、やや薄暗い廊下を進む。節電のため廊下の照明は間引きされている。パンプスの足音が静かな廊下に響く。

《宿直室》と表記された部屋の前まで来たとき、私はドアをノックした。乾いた音が数回したが中からは返事が無い。

『まさか……熟睡してるの?』

私は軽く嫌な予感がして

「小林さん! 片倉です!入りますよ!」

やや強めに中の人に声をかけるとドアを開けた。嫌な予感は的中し、〔あの男〕は寝息を立てていた。私は簡易ベッドの側に行くと、寝ている男の肩を揺する。

「小林さん! 起きて下さい!休憩時間は終わりですよ!」

軽く揺すっても、起きる気配は無い。

『返事がない。ただの屍のようだ』

「……そんなわけない!! 起きろぉ! こ……ば……や……しぃ!」

私は小林と呼んだ男の頬をはたく。

「くっ! 50%の力ではダメか? ならば限界突破の120%の力で!」

私は拳を握り締めると、渾身のストレートをぶち込むべく構えながら

「こ……ば……や……し〜! 歯ぁ食いしばれー!」

殺気を感じたのか、

「待て! 片倉! 今、起きるよ!」

揺すっても起きない男が声を上げた。私は握った拳の緊張を解く。その様子を見て取った男は

「……お前……まさか、殴るつもりだったのか?」

私は悪びれず答える。

「あなたを起こすには『これ』しかないと思って……」

男は呆れたように口を開く。

「今どき拳で人を起こす奴はいない。昔の軍隊じゃないんだから!」