【前回の記事を読む】山の中に捨てられていた男の遺体…シャツに付着していた衣類の繊維が、身に着けていたものと一致しなかった。

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ビルの三階と四階に入っているその居酒屋は今日も大学生や仕事帰りのサラリーマンでごった返していた。二人は十分ほど待たされてから、個室の席に案内された。

「やっぱり、メシはうまい方がいいですよね」

「当たり前だ」

「それから、ビールもうまい方がいい」

「当たり前だ」

中岡は素っ気なく答えた。沖田は普段そつなく仕事をこなし、優秀な刑事として捜査一課でも通っている。府内の公立大学で工学を学んだ後輩刑事は礼儀正しく、おまけに顔もいい。

高校時代にはソフトテニスで全国大会にも出たぐらいだから、運動神経だって並ではない。そんな彼も酒が回り始めると、当たり前のことしか言わなくなる。

どんな人間も、いつでも完璧でいられるわけではない。飲み始めてから既に三十分以上が経っている。向かい側でビールジョッキを握っている沖田を見て、中岡は改めてそう思った。

「あと、女の子はかわいい方がいい」

「当たり前だ。かわいくないのは女じゃない」

「そういえば、中岡さんの奥さんもかわいいですよねえ」

中岡の口元に思わず笑みが漏れた。

「まあ確かに、かわいいことはかわいいけど、あいつはもう四十一だぞ。おばさんって呼ばれるような年齢だ」

「えー、まだ若いじゃないですかあ。おばさんってのは、僕の母さんぐらいの人を言うんですよお」

沖田はニヤニヤしながら鶏皮を食べた。

「お前のお母さん、いくつなんだ」

「ううん……、六十とかかなあ」

それは、おばさんでなくておばあさんだろ、と言おうかとも思ったが、中岡はやめておいた。

六十前後ならまだぎりぎりおばさんだろうと思ったからだ。

「すごいよなあ、中岡さんは。あんなにかわいくて料理のうまい人が奥さんなんだからなあ。あははははは」

「おい。それ、俺がすごいんじゃなくて、俺の嫁さんがすごいだけだ」

「いやいやあ、あんないい人の心を捉えたあ、中岡さんも十分すごいですよお」

沖田はジョッキを持ち上げてビールを飲み干すと、テーブルに置かれていたブザーを押した。

どうやらまだ飲むつもりらしい。