「信之くん、毎日遅くまで練習してるんですかあ」

沖田が訊いた。

「まあ、そうだな。いつも」

中岡は少し考え込んだ。

「帰ってくるのは七時過ぎらしい。嫁さんがよくそんなことを言ってる」

「僕も中学高校時代はあ、そんなんだったなあ」

沖田は平皿から鶏皮を取って齧った。彼はさっきも鶏皮を食べていたから、平皿に残っていた鶏皮は本当は中岡の分だった。中岡は、まあいいか、と思って軟骨を取った。軟骨は二本目である。

「そっからメシ食って勉強かあ。中学生も大変だなあ」

「いや、あいつは勉強なんかしてないぞ」

「ああ、スマホでゲームかあ」

沖田は注文を取りに来たアルバイトの女子大生に生ビールを頼んだ。

「時代は変わりましたもんねえ。僕らが中学生の頃はあ、ガラケーしかなかったしい、ちゃちいゲームしかできなかったからなあ」

「いや、あいつはラインしてるんだ。彼女がいるらしい」

「えええ、かのじょお?」

沖田は青じそドレッシングのかかったキャベツをバリバリ齧っていたが、途端にその動きを止めて目の前の中岡の顔を見た。そうかと思うと、ふっと表情を緩めた。

「まあそうですよねえ。あんなにイケメンなんだからなあ」

「そんなにイケメンか、あいつ」中岡は息子の顔を思い浮かべて首を捻った。

「イケメンですよお、彼はあ」

沖田は笑いながら答えた。

「僕も相当なイケメンだったのにい、さすがに中坊の時に彼女はいなかったなあ」

「ふつう、自分で言うか」

「ふつう自分で言いますよおおお。あっははははは」

注文したビールが運ばれてきたので、沖田はそれを受け取りながら答えた。話す語尾が異常に伸びてきている。もう相当酔ってるな、と中岡は思った。

3

中岡がタクシーで沖田を彼のマンションに送り届けたのは、午後十一時になろうかという頃だった。

中岡が会計を済ませて店を出ると、先に店から出ていた沖田は大の字になって路上で倒れていた。この状況で送らないわけにはいかないだろう。

沖田のマンションから中岡の自宅までは、七キロ近くある。中岡は少し考えた末、歩いて帰ることにした。

速足の彼なら、歩いて帰っても八十分ほどの距離である。中岡も少し酔っていたので、酔い覚ましに歩きながら物思いに耽るもいいだろうと思った。

 

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