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「信之(のぶゆき)、いつまで寝とん! はよォ起きといで!」

遠くからそんな声がぼんやりと耳に届いた。そう思っていたら突然ドアの開く音が聞こえ、次の瞬間には毛布が勢いよく捲られた。

まだ暖房が点けられていない室内の冷え切った空気が信之を震え上がらせた。昨日までとは打って変わって、今日の大阪には寒気が舞い戻っているようだ。思わず信之は捲られた毛布を引き寄せたが、舞子(まいこ)がそれを取り上げた。

「もう、何すんねん」寝ぼけまなこで信之が上体を起こした。

「あんた、今日は部活の朝練やろ! はよ起きて、ご飯食べなあかんやん!」

「朝練は七時半からやでえ」信之は枕元の目覚まし時計を見た。「なんや、まだ五時五十分やんか」

信之が再び毛布に巻き付こうとすると、舞子は布団の縁を両手でがっしりと掴み、そのまま勢いよく手前に引き上げた。

傾斜のついた布団から転げ落ちる形になった信之は、そうなるだけならまだしも、そのまま部屋の壁に思いっきり身体をぶつけてしまった。

そのおかげで、彼は一瞬で目が覚めた。そんな息子の様子を見てにやりと笑うと、舞子は彼の部屋から出ていった。

信之がトイレと洗顔を済ませてからダイニングに下りていくと、テーブルの上には目玉焼きとほうれん草のバター炒めが載った皿、サンドイッチ四切れが載った皿、オレンジジュースの入ったグラスが彼の席に置かれていた。