舞子は自営業でパン屋、というよりはサンドイッチとフランスの焼菓子を専門にしたカフェを営んでいる。店の名前は『グテ・まいまい』だ。「まいまい」とは、舞子の小中高時代のニックネームらしい。

店舗になっている建物は住居も兼ねており、二階にはリビングの他にキッチンとダイニングが、そして三階には家族それぞれの部屋に加えて夫婦の寝室があるという造りだ。

一階の店舗だけは洒落たログハウス風になっており、その空間のところどころに置かれた木製の机には、木の色と鮮やかな対を成すようにブルーやオレンジ、グリーンのマカロン、他の机にはハート型をしたピンクのダックワーズなどが透明な袋に入れて並べられていた。

大阪府箕面(みのお)市にある半町(はんじょう)や桜ヶ丘(さくらがおか)という一帯は閑静な住宅街になっており、立ち並ぶモダンな建物に住んでいる主婦たちは経済的にも余裕がある。

『グテ・まいまい』には狭いながらもイートインのスペースがあるため、彼女たちがランチタイムやティータイムにはよくやってきてくれる。

ランチタイムの午前十一時から午後一時まではサンドイッチやサラダなどの軽食も出しており、それが彼女たちに好評なのだ。

このサンドイッチやサラダは日替わり、というより舞子の気まぐれでいつも中身は違っていたから、たとえ毎日ランチを食べにきたとしても飽きることはない。

おまけに舞子は美人である。去年で四十一歳になっていたが、信之がからかって年齢を指摘するたびに、彼女は「何ゆうてんの! 女はいつまで経ってもかわいいねんで!」と笑って受け流すのだった。

舞子は知的な美人というより、彼女と接した時に優しい気持ちになれるタイプの美人なのである。

息子の信之でさえも、彼女のちょっとした振る舞いを見てかわいいと思うことはあるし、学校で「お前の母ちゃん、むちゃかわいいやん!」と同級生から囃(はや)し立てられるたびに彼は口では否定しながらも、内心ではいつも嬉しかった。

そんな状況だったから、信之が中学生になってからは、彼の学校仲間が『グテ・まいまい』にお菓子を買いに来るということもよくあった。

 

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