【前回記事を読む】日本人軍医が戦犯裁判に…罪名は「捕虜虐殺」。彼は負傷した米軍兵を手術までして治療していたのに、一体なぜ?

第一章
マズローの欲求の段階から見た「生きる目的」

五 人間にとって幸福とはどういうことか

(1)無実の罪で処刑された上野軍医

上野軍医は妻への遺書とは別に子供たちに向けて詩を書き残している。参考までにこの詩の全文を紹介しよう。

みんなに

悲しみのつきぬところにこそ

かすかな喜びの芽生えの声がある

熱い涙のその珠にこそ

あの虹の七色は映え宿る

人の世の苦しみに泣いたおかげで

人の世の楽しみにも心から笑える

打たれ踏まれ唇を嚙んだおかげで

生れて来たことの尊さがしみじみ解る

醜い世の中に思わず立ちあぐんでも

見てごらんほらあんなに青い空を

皆が何も持っていないと人が嘲(あざわら)っても

皆知っているもっと美しい本当に尊いものを

愛とまことと太陽に時々雨さえあれば

あとはそんなにほしくない

丈夫なからだとほんの少しのパンがあれば

上機嫌でニコニコ歩きたい

それから力いっぱい働こう

そうして決して不平は云わずに

何時(いつ)も相手の身になって物事を考えよう

いくらつらくても決してひるまずに

どこかに不幸な人がいたら

どんなことでも力になってあげよう

もしすっかり自分を忘れてしてあげられたら

もうそれできっと嬉しくてたまらないだろう

うつむいていればいつまでたっても暗い空

上をむいて思いきって笑ってごらん

さびしくて、どうしても自分が惨めに見えたら

さあもっと不幸な無数の人々のことを考えてごらん

道はどんなに遠くてもお互いにいたわりあい

みんな手をとりあって歩いていこう

悲しいときは共に泣き楽しいときは共に笑い

肩を組み合って神のみ栄えをたたえよう

朝お日様が昇るときは

あいさつに今日もやりますと叫びたい

夕べお日様が沈むときは

夕焼雲をじっと見つめて坐(すわ)っていたい