心にはいつもささやかな夢を抱いて

小鳥のようにそっと眠り

ひまがあったら古い詩集をひもといて

ひとり静かに思いにふけりたい

幸せは自分の力で見出そうよ

真珠のような涙と太陽のような笑いの中に

今日もまたあしたも進んでいこうよ

きっといつの日か振り返って静かに微笑(ほほえみ)あうように

偽って生きるよりは偽られて死に

偽って得るよりは偽り得ずに失えと

天国からじっと見守っているお父様に

手を振ってみんな答えておくれ「おう」と

何度転んでもまた起き上がればいい

なーんだこれしきのことでと笑いながら

さあみんな朗らかに元気いっぱい

さわやかな空気を胸に大きく吸いながら

(※詩中のルビは編集部による)

処刑を直前にして発した、妻や子に真心を込めて贈ったこの詩に、私は第四章第三節「(4)善行」において論じた西田の次の説を思い出すのである。

「人間が人間の天性自然を発揮するのが善である」

この言葉は、善のある一つの切り口を表現している。例えば花が花の本性を現わした時に最も美しいように、人間が人間の本性を現した時こそ美の頂点に達するということを端的に表現している。「善は即ち美」である、とも言えるだろう。

(2)あるパイロットの奇跡の生還

このことを示す例を挙げると数限りなく出てくるが、ある実話のことが真っ先に思い起こされる。

今から二十年ほど前にあるテレビ番組において、アルゼンチンの宝くじで一等に当選した老パイロットのことが放映された。

その番組の中でこの老パイロットが、実は若い頃、飛行機の操縦中にアンデス山脈中の山の頂上付近に不時着しながらも九死に一生を得て生還した幸運の持ち主であったこともエピソードとして紹介されていた。私は二度も幸運に恵まれたこのパイロットに興味を覚えた。

同時に、二度もこのような幸運に恵まれたこのパイロットが、ユングの幸せになる六つの条件の内のどれを満たしていたのか知りたくなった。そこで、私はこのパイロットの最初の遭難事故のことを調べはじめた。

この遭難事故の一週間ぐらい前から悪天候が続いたため、アンデス山脈を越えた町への郵便物が大量に溜まってしまっていた。

郵便飛行会社の社長は、この悪天候にアンデス山脈を越えるのは無理だと判断して飛行を止めていたが、パイロットは職業使命感の強い人だったのだろう、手紙を待っている人も大勢いるのだからと社長を説得して、天候も少し回復してきたので、周囲の反対を押し切って強引に出発してしまった。

だが、麓と違って頂上付近の天候は悪く、頂上付近で遭難してしまった。それを知った会社は救助の飛行機で必死の捜索を続け、パイロットも上空の救助機に何度も救助弾を打ち上げたが悪天候による視界不良のために見つけてもらえなかった。

やがて弾もなくなってしまい、食糧もなく、防寒具もない氷点下四十度の頂上付近では凍死が間近に迫っていた。パイロットは、せめて遺体が強風で飛ばされないようにと、自分で体に石をたくさん積み上げ、あとで発見してもらえるようにして死の準備をしていた。

 

👉『改訂版 生きる目的』連載記事一覧はこちら

【イチオシ記事】店を畳むという噂に足を運ぶと、「抱いて」と柔らかい体が絡んできて…

【注目記事】「今日、主人は出張で帰ってこないの」ホテルの入口で一瞬ためらったけれど、夫だって浮気をしているのだから私だって…