突き出された竹箆から、顔をそむけて後退(じ)さりをした石動が足を止める。左足の、下駄の後ろ歯が宙を噛んでいた。
「何をおっしゃいますか。人がおいしくないものをお魚が食べますか」
何かが違う。そうは思ったが石動は魚に詳しくない。鯉は芋を食う。知っているのはそれだけだ。そして、目の前の金団のような物は実に良い匂いをさせていた。そして、これ以上退がれば川に落ちる。
「はい、あーん」
「あー」
口を開けてしまった。
心地良い甘さが口の中に広がった。芋だけの味とはとても思えないが、石動にはそれ以上は分からない。
文句を言わずに食う。
石動の食はそれがすべてだ。うまいまずいを言った事もなければ、これは何かと聞いた事もない。だから、今石動に言える言葉は一つしかない。
「うーむ」
「でしょう」
太平の顔がへへへの字となる。
「ふかしたお芋を摺って、味醂(みりん)と黒蜜と酒粕を加えてあるんです」
言いながら自分も一匙を口にする。
「こうして口に含んでいるとですね。あ、今です。ええ、今、ほろっと崩れました」
団子釣りは匂いで魚を寄せて釣る釣りだ。
鈎(はり)を団子でくるんで水に落とす。団子の重さで浮子も水中に沈む。団子が解(ほど)けるに従って浮子が浮いて来る。
「固すぎたらいつまでも団子のままです。柔らかすぎたら鈎がすぐに飛び出しちゃいます」
団子がゆっくりと解(ほど)けながら、鈎を包んで上がって来る。それが理想なのだ。
「ええ、とても良い解け具合だったでしょう」
どうやらそれを自慢するために一口をくれたようだ。
「うむ」
団子は、解ける前に胃に落ちた。