「そうだけど……違った……?」
尋ね返すと、秋斗ははぁ、とため息をついた。それから少しの間、自問自答するような間があって、頭を振る。
「いや、はっきり言わない俺が悪かったな」
「え……?」
「俺は岡野が好きだよ」
立ち止まり、まっすぐに理子を見つめて秋斗が言う。その瞬間、理子の呼吸が詰まった。極度に恥ずかしくて、ものすごくうれしい。でもなんと言っていいのか、どういう顔をしていいのかもわからない。
「なんで……?」
「なんでって言われてもな……オフィスで残業してるあんたを見て、同期だって気づいてから、先輩にも食って掛かるところとか、すれ違う人に笑顔で挨拶してるところとか見て、気づいたら好きになってた」
「う、そ……」
「ほんと」
表情を変えずに、秋斗が理子の言葉にそう返す。理子は何をどう返していいのかわからず、喉で言葉が詰まっているのがわかった。その顔を見て、秋斗はなにかを察したのか視線をそらした。
「……別に、すぐ答えが欲しいとかいうわけじゃないから」
(ダメだ、あのときみたいに、逃げたらまた気まずくなっちゃう……)
「待って! 私も、言いたいことがあるの!」
「言いたいこと?」
「そう。今日……、ライブのときに目があったでしょ。そのときに、私この人のこと好きかも、って思ったの」
「……」
「そのときの豊橋の目がすごく優しくて、直感的に……なんか、この人と一緒にいたいなって……隣の席にいるのに、触れられない距離なのがもどかしいなって──」
そう理子が言った瞬間、秋斗の手が理子を引き寄せて抱きしめた。
「これでも、遠い?」
耳元で聞こえるその声に、さらに心臓が早鐘を打つ。
「……ううん、近い」
次回更新は5月7日(木)、11時の予定です。
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