【前回の記事を読む】子供の頃から遊びなれた従兄が、軍人になって目の前に現れた。まるで人が変わったようで――胸がざわついた
二 横浜
「奈津の方こそまるっきり変わったね。あのときはまだ女学校に入った頃だったかな。ずいぶんきれいになったね」貞義の目は笑っていた。
「そう……。さっき面会所の受付で記帳していると、中尉の奥さんになる人ですかと聞かれたわ。慌てて従妹ですと言ったんだけれど、信じてくれなかったみたい」
「こんなきれいな女(ひと)が奥さんになってくれるのだったらいいですね」横から寒川が口を挟んできた。
「ああ忘れてた。紹介するよ、こいつは今回一緒に移動した寒川三等空曹。二番機を操縦して一緒に霞ヶ浦から飛んできたんだ」貞義はぶっきら棒に言った。
「さっきお昼前に、野島に向かって二機の飛行機が飛んできたけれど、二番目に乗っていた方ですか」奈津は寒川に向かって聞いた。
「九三式水上練習機です。赤トンボと言われている下駄ばきの水上機です」寒川三等空曹は嬉しそうに答えた。
「やはり見に来てくれたんだ。母からの手紙に、奈津ちゃんが面会に来てくれると書いてあった。奈津ちゃんが一度水上飛行機が飛んでいるところを見たいと書いていたから、移動日とおおよそ昼頃に着くと電話しておいたんだ。多分金沢文庫の称名寺辺りにいれば、色々な飛行機を見ることができると話しておいたが、本当に来てくれるとは思っていなかった」
貞義は少し驚いたように言った。
「ノブ叔母さんから横浜に電話があったの。だから称名寺の近くで赤いパラソルを差して待っていたのよ。そしたら黄色い飛行機が二機飛んできて、島の間をぐるっと回って飛んで行ったわ。私が立っているの見えなかった?」
奈津はいい返事を期待した。
「ごめん。追浜飛行場の上を着任の挨拶代わりに飛んだのだが、赤いパラソルには気付かなかったな。来てくれると分かっていたら注意していたのだが。着水するのに気が取られていたのかな」
貞義は申し訳なさそうに答えた。
「残念ね。私からは目の前を飛ぶ黄色い飛行機はよく見えたわ。乗っている人もはっきりと見えたのよ」
奈津は念を押すように言った。
「赤トンボはよく目立つからね。でも黄色ではなく、本当は橙色なんだ。みんな赤トンボと言うが、赤でもないよね」
貞義はバツの悪さを隠すように話題をそらした。
「でも、どうして野島と夏島の間にある追浜飛行場の上を飛んだの?」
「寒川は予科練出身で、追浜飛行場で基礎訓練を受けたのだ。今は予科練も霞ヶ浦に移ったが、残った連中に挨拶するために追浜飛行場の上空を飛びたいと言い出したので、野島と夏島の上を飛ぶことにしたんだ」