ネイビーは、旅に出てから半年で3度、店に顔を見せた。いつもの紺色のオープンシャツを着ていたが、自分は客だからと言って、スツールに座った。
1度目は、タエさんに「なんでもいいから照り焼きが食べたい」とメッセージが入り、夕方の賄い時間からひとりで現れた。日本に帰って食べたくなるもの、おれは寿司や天ぷらじゃなくてさ。こういうタレものか、あとはなぜか、海老ドリアなんだ。
2度目は、全国にネットワークを持つ信州の養蜂家と、ナノマシンを研究する東京の大学教員が一緒だった。世界中でハチ類が激減している。果実など花の受粉が危ない。数千万匹規模の受粉媒体装置が……そんな話をしていた。
3度目は、カナダから帰ったネイビーと共に、漆黒の髪と大きな瞳の女性がやって来た。
北米拠点の、包容力がありそうなナジャーとタエさんは、3秒で意気投合した。ナジャーはその後、タエさんに、私たちに共通する精霊のお守りですと手紙をつけて、伝統工芸の仮面を贈った。
クマくん席の、後ろの壁に仮面を掛けると、大きな体躯の男は、小さく肩をすぼめてつぶやいた。
「……なにかを、感じます」
アッちゃんは店にくると、二礼二拍手一礼で仮面を拝んでいる。
*1 サイバーフィジカル 実世界(フィジカル)とサイバー空間をIT技術によって結びつけること
次回更新は4月22日(水)、11時の予定です。
👉『これからの「優秀」って、なんだろう?』連載記事一覧はこちら
【イチオシ記事】初めての夜は独特だった。「男なのに、それで満足できるの?」と聞くと、彼は不思議そうに「男だけ気持ちよくなるのは違う…」
【注目記事】夜、二人きりになった途端に抱きついてきた夫。「一日中、部下に取られていたから…早くおいで」と言って私の手を引っ張り…