俳句・短歌 歴史・地理 歌集 日本列島 2020.10.01 歌集「秋津島逍遥」より三首 歌集 秋津島逍遥 【第26回】 松下 正樹 “忘れえぬ旅をまたひとつ三十一文字に封印す” ――日本の面白さに旅装を解く暇もない 最果ての無人駅から、南の島の潮の香りまで、まだ見ぬ土地に想いは募る。 尽きせぬ思いが豊かな旅情を誘う、味わい深き歌の数々を連載にてお届けします。 この記事の連載一覧 最初 前回の記事へ 次回の記事へ 最新 北限の岬によする波に濡れ 天草をさぐり採る女たち *天草 テングサ科の紅藻。 尻屋崎に放牧さるる寒立馬 あを草の上に太き糞おく 矛草の萌ゆる岬の寒立馬 仔はよりそひて乳房吸ひゐき
エッセイ 『プリン騒動[人気連載ピックアップ]』 【新連載】 風間 恵子 「そんなプリンなんか作ってないで、早くメシのしたくしろ!」台所で一挙手一投足に怒り狂う義父。言葉の暴力が鉛となって心臓を突き抜けた。 ある晩のことだった。三人で、夕食のしたくをしていた。この三人と言うのは、舅(しゅうと)・姑(しゅうとめ)・嫁すなわち、私の事である。台所は女の神聖な場所と考えられているのではないか。しかし、この家では、舅が当たり前のように立つことが多い。自分が調理したものは自慢をするが、人の作った料理は決して、美味しいとは言わない。逆に貶す事に喜びを感じるタイプである。野菜の切り方から、味つけまでを一つ一つ指摘…
小説 『鼠たちのカクメイ』 【第9回】 横山 由貴男 爆ぜる音が連続して鳴った。一斉射撃の訓練らしい。「すげえ。おっちゃん、戦でも始めんのかい?」「坊主、ええ勘しとるやないか」 そこへ洗心洞に寄宿する書生が入って来て、意義たちの到着を告げた。「先生。表に渡辺良左衛門という方がお見えです」「おう。帰ったか」玄関に出てみると、懐かしい顔と見知らぬ顔があった。「ご苦労やったな、おき……ああ、渡辺やったか。ほんで、その坊主は?」「まあ、ゆえあって私の養子ということに」百姓という出自ではこれからの行動に支障があるというので、カイを意義の養子ということにしていたのだ。「わ、わ、渡辺…