【前回記事を読む】これからは「FIRE成功者」ではなく「小さなコミュニティの世話役」であることが重要。すでに経営者やリーダー層は、従来の働き方に…
第五章 我々は、なにを学び、どこへ行くのか
この学び舎には、定型プログラムがない。課題の創造こそ、学ぶ者の側にイニシアティブがあるべきだと考えられている。
月に2度のブレスト前には、
〈地域の古老に、幼い頃のしあわせについてインタビューする〉
〈100年後に残したい暮らしの習慣〉
〈生まれ変わったら就いてみたい、まだない職業を創案〉
といった、平板だが人間として深耕すべき問いが、引き金として出題される。
参加生は、世界のさまざまな土地で暮らし、仕事も価値観も違う。
多様な彼らが、ふだんは実務課題として捉えないような探究を起点として、お互いの環境と自身の内心にひそむ、新しい成長や幸福の機会を見つけ合う。
そうした人間本来の希求をもとに、世の中に価値ある事業や商品サービスを発想する。
競争を起点とする現在の思考とは、プロセスが異なるのだ。その発想は世界中の参加者に〈アイデア・コモンズ〉として在庫共有され、誰が協働・実行しても良いオープンライツをもらい合える。
参加生は原則として、生涯この学び舎に出入りすることができて、つながりを豊かに拡げることになる。
各国の拠点は、仮想空間でもリンクしているが、その中で自発的にプロジェクトルームを作るのも、自由だ。参加の選抜制度は、まだ確定していない。
賛同する企業団体からの応募者だけになると、成果を急ぐ、いつものビジネス慣習に巻き込まれる。
この学びのコミュニティは、通常の上昇志向や経済効率思考とは距離を置こうというのが、創立メンバーの一致した考えだった。
ネイビーはアイスバケットから日本酒を取り出し、二つのグラスに静かに注ぎ足す。
「世耕さん。日本は、こうした活動の拠点としてふさわしい場所なのでしょうか」
「一時は、世界に名だたる経済国と目され、お金儲けの権化のようになってしまった面はありますけどね。私はまだ、この国には、良い芽が残っているような気がします」
世耕さんは、ネイビーに宿題を出していた。
〈1919年にニューヨークで開校された、The New School for Social Research〉
〈江戸時代の私塾、連・講〉について、調べておいてください、というものだった。