「先生は真面目でしたから、他人から恨みを抱かれるようなことはなかったと思います。ただ最近、何故か防衛大臣政策参与の一人、新井幸二氏と言い争いをすることが多くなっていました。

彼は自衛官出身で、元東部方面総監の経歴です。論争の内容を先生に訊いてみたんですが、防衛省の極秘情報なので秘書にも話すわけにはいかないとおっしゃっていました」

「そうですか。山口さんはこの男を見たことはありませんか? 顔はよく分かりませんが、特徴的なロゴのパーカーを着ているんですが」

鍬下は防犯カメラの写真を見せながら訊いた。

「いや、見たことないですね」

「実はこの男が多田さんのマンションで火災が起きる直前に周囲をうろついていたのが防犯カメラに写っていたんです」

「えっ、まさか警察は放火を疑っているんですか?」

「まだそうと決まったわけではないんですがね。ところで、つかぬことを伺いますが、山口さんは神撰という組織をご存知ですか?」

「神撰? さあ、何のことだか」

「そうですか。また何か分かりましたらご連絡ください」

鍬下が去って行く後姿を山口はしばらく鋭い視線で追っていた。次に鍬下は国分寺の藤田洋子の隣家を訪れ、池田久美子という50代の女性に話を聞いた。

「洋子さんはほんとに人のいいおばあさんでね。私は母をもう亡くしたものだから、自分の母親だと思ってお付き合いしてたんですよ。洋子さんの方も、旦那さんも息子さんも若くで亡くされて、一人で寂しそうにしてたんでね。それがあんなことになってしまうなんてほんとに可哀そう」

「この男を見かけたことはありませんでしたか?」

鍬下は男の写真を見せた。

「いや、ないですね。ひょっとして放火だったんですか?」

「その可能性があると考えています。火災の前に何か変わったことはありませんでしたか?」

「ああ、ただ、関係あるかどうか分からないんですけど、火事があった日の夕方に、人にもらったお土産をおすそ分けしようと思って、洋子さんのお家に行ったんですよ。

いつもならチャイムを鳴らしたらすぐ出てくるのに、その日は全然出てこないもんだから、心配したんですよ。腰が悪くて一人では外出なんてできませんからね。

ひょっとしたら家の中で倒れてるんじゃないかって思って電話したんだけど全然出ないし。それで一旦家に戻って、しばらくして様子を見に行ったら、窓に灯りがついたんで、トイレに入ってたのかと思って安心したんですよ」

次回更新は3月15日(日)、21時の予定です。

 

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