本人はジョークのつもりで言ったのだが、若菜は少しだけ寂しそうにしていた。おまけに良三が「おい、勝手に俺を巻きこむんじゃねぇ。ワシは百二十まで生きる予定なんだからよ」と噛みつく。

「まだ四十年近くあるじゃないか。そんなに生きてどうするんだ」

「知らん。生き延びてから考える」

「なんだそりゃ」

「俺には俺のやるべきことがあるんだよ」

「だからそれがなんだと訊いているんだ」

「……」

威勢はいいが何も考えず、勢いだけで生きている良三の言動に景浦はほとほと呆れた。このような向こう見ずの男と共に暮らす若菜の苦労が偲ばれる。そんな若菜は「さすがに四十年も経ったらストーブも壊れちゃうね」と、どこか的の外れた感想を漏らしていた。

「壊れたら直しゃあいいじゃねぇか。もったいねぇ」

「しかし良三。手間暇とランニングコストを考えたら、エアコンや電気ストーブのほうが経済的だぞ。いちいち灯油を買いに行くのも面倒だろ」

「あぁもう、変な横文字使うなっての。そもそもずっと火鉢を使ってるテメェに言われたかねぇよ」

「ワシは愛着があるから使ってるだけだ。親父の形見でもあるからな」

「形見ならあの軍刀があるじゃねぇか。将校様だったんだからよ」

「刀じゃ暖は取れんだろうが」

「それもそうか。がっはっは」

良三は膝を叩いて笑い、これではいつ帰れるか分からないと踏んだ若菜は少々強引にあいだへ割って入った。

「おじいちゃん、もう晩御飯できるから帰ろうよ。おばあちゃん待ってるから」

「んぁ? もうそんな時間かぁ。どうりで腹が減るわけだ。雄作は茶菓子のひとつも出してくれねぇからなぁ」

「出したら出したで晩飯が食えなくなるくらい腹を太らすのはどこのどいつだ、馬鹿者が」

「あー、なんか言ったかー? こちとら間近で隼の爆音ばっか聞いてたから耳が遠くってなぁ」

「まったく、調子のいいことばかり言いおって……」

飄々とした様子で景浦をいなしつつ良三はサンダルに足を入れた。若菜は良三の非を詫びるように恭しく頭を下げ、「せっかくだから景浦さんもご一緒しませんか?」と申し出た。

「ありがたいが部外者が家族水入らずの時間を邪魔するわけにもいかないからね。お気持ちだけ頂いておくよ。ありがとう」

「テメェ、なに俺の孫に色目使ってんだ。ぶっ飛ばすぞ」

「そのヒョロヒョロの腕でか?」

「テメェも似たようなもんじゃねぇか。まぁいいや、俺の可愛い孫が迎えに来てくれたんだからな。一緒に飯食ってくらぁ」

「おう、そうしろそうしろ。喉に飯つまらせて死なないように気をつけろよ」

「うるせぇっつの。テメェのほうこそ夜中に心不全でポックリ逝かねぇようにな。孤独死でもされたらかなわねぇから、明日も見に来てやるわ」

次回更新は3月28日(土)、11時の予定です。

 

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