医療者が経営学修士号(MBA)を目指す理由とは

それでは日々の業務で多忙な医療者がMBAを目指す意義はどこにあるのでしょうか。MBAの授業科目の一例を示します(図1)。

[図1]MBA(経営学修士)の授業科目例

私が通っていた英国国立ウェールズ大学経営大学院日本語プログラムでは、授業が週1回土曜日にあり、平日は指定された文献や書籍を読んで予習し、土曜日に6~9時間の講義を受けます。日曜日はその復習と次の週の予習に当てます。講義の多くはインタラクティブ(双方向性)で、講師と学生で議論しながら進みます。

個人やグループでのプレゼンテーション、提出課題、定期試験があります(1.5年)。さらに修士論文の研究テーマを決めて論文を執筆します(0.5年)。修士論文の査読に合格して晴れてMBAの学位取得となるわけです。他の大学院では修士論文を課さないところもあります。

授業料は国公立ですと、年間50万~60万円ですが、民間ですと年100万~200万円、さらに海外で留学となれば、生活費を合わせて2年で2000万円程度の費用が必要です。それではそのような労力とコストをかけてMBAを学ぶ意義とは何でしょうか?

第一に、思考様式の多面的な訓練が臨床スキルのブレイクスルーを引き起こすことです。例えば経営が傾いた一企業を再生させるための戦略を財務分析や過去の先行研究から考察し、考え抜く訓練が、まわり回って診断力のブラッシュアップになります。

例えば、とあるコンビニエンスストアの経営復興、外国人向け健康ツアーのベンチャー企業を成功させるプラン、新たなカップ麺の開発戦略を考える訓練などがありました。その思考過程は難症例に問診・診察・検査所見などあらゆる手を尽くして立ち向かうのと同様の経緯を辿りました。

MBAの経験を臨床にあてはめると、情報収集の網羅性を高める方法や診断アプローチの選択に柔軟性と迅速性を与える方法を発見できるのです。