「昨日はデパートの地下へ行ってな、魚やつまみを買ってきた。いろいろあるもんだなあ」
初めての体験を結構楽しんだようだ。今どきは単身赴任の男性も結構いるので、男が一人で買い物することも、そう恥ずかしいことではない、と背中を押されたようだ。
「うまそうなメザシがあったから、買ってきて、焼いて食べた」
魚を焼くグリルを開けてみたが、使った形跡がない。グリルなどわからないだろうから、魚焼き用の網にのせて、ガス火で焼いたのか。
案の定、流しに焼き網が置いてあった。
が、何やらブルーの物体が、どろりとした異様な形でこびりついている。
嫌な臭いの犯人は、これだ!
父の行動パターンが、目に見えるようだった。
旨そうなメザシは五尾。昔なら、イワシの目に藁を通してまとめてあったものだが、現代ではプラスチックのストローのようなもので、目を串刺しにしてある。
そのストローを刺したまま、五尾一緒に網にのせて焼いた、というわけである。
そんな生活スタイルの父なので、子犬はかわいがるだけ。あとの世話は何もしない、というか、何もできない。
母は、脳梗塞の後遺症もあって、あまり無理もできないでいる。
犬の世話で母のストレスが溜まってきているのを見るに見かねて、私が子犬を預かることにした。あくまでも預かって、毎日仕事場である父と母が住む会社へ出勤する、ということにして。
父も、毎日醸に会えるので文句はない。子供がいない私にとっては子連れ出勤のようなものである。
ビーグルとは違って、ミニダックスの醸は車酔いすることもなく、道中無駄に吠えることもなく、ちょこんと助手席に座っておとなしく毎日通うようになった。
くしくも私の願いも同時に叶ったのだった。
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