【前回記事を読む】【子犬が家にやってきた!】さて、名前を付けるのが難題。甥っ子が、ふと思いつき——愛犬の名が決まった

第二走者 醸 (ミニチュア・ダックスフント) 平成九年~平成二十二年

子犬のワルツ

父はいわゆる「昔人間」だから、仕方がないといえば仕方がないが、六年ほど前に母が脳梗塞で倒れて、一か月以上入院していたときは大変だった。

私は近くに住んではいても、一緒には暮らしていなかった。仕事は一緒にしていたので、毎日顔を合わせることはできた。仕事しながら父の面倒まではとても見ていられない。

「いや、吾輩のことは心配しなくとも、何とかする」

と父は言ったが、食事は一人で食べるとしても、後片付けというものを、男はしない。というか、しないのが男だ、沽券にかかわる、と思っている節があった。私は毎日台所をのぞいては食器を洗い、洗濯物の面倒を見ることにした。 ごはんは炊飯器にセットするだけだから、母がいなくとも大丈夫だろうと思いきや、

「美味しくないんだよ。やっぱり母さんでないと、だめだ」と言う。

「お米を洗って、目盛りまで水を入れて、蓋をしてスイッチ押すだけよ」

あきれ返って言う私に、父は少々むっとしたような顔をする。

「米は飯盒(はんごう)で炊いたことはあるが …… 」

「戦争中じゃないんだから、飯盒なんてどこ探したって、ないわよ、今どき」

日頃のうっぷんを晴らそうと、ありったけ悪口を言ってやる。父と私は、仕事の面では何かというと見解の相違があって、対立することが多かった。

母に倒れられてから少ししおらしくなっていた父は、

「それじゃあ、やってみるから、見ていてくれよ」と言って ……

まずお米を量る。

父は、御飯茶碗をとり出し、米櫃(こめびつ)の蓋を開けた。どうやら御飯茶碗を計量カップ代わりにしていたらしい。

「ブブーッ」

米櫃の下には一合か二合かのレバーが付いている。レバーを押せば、下の口からさらさらと米が流れ落ちて出てくる。三合炊くなら1と2を同時に下げる。四合炊くなら2を二回下げればよい。そう教えると、「便利なもんだな」と父は二合の米を炊飯器の釜にいれ、水道の水をかけて洗い、私の顔を見る。