【前回の記事を読む】私に会いに上京したはずの母。しかし、位置情報が示したのは板橋区の民家…そこは末期患者のための治療院だった。

サイコ3――奇跡の手

三人は近くのカフェに入った。賽子は気を使ったのか、二人とは遠い窓際の席に一人で座った。

「お母さん、どういうこと? 説明して」

麻利衣が詰め寄ると、小百合は視線を落として、コーヒーカップに落とした角砂糖を入念にかき混ぜた。

「5年位前かな、血便が続くようになって、病院で内視鏡検査を受けたら、大腸癌って言われたのよね。

その時手術を勧められたんだけど、人工肛門になるって言われて怖くてね。ほら、ほんとの癌だったら、手術しても抗癌剤治療してももう治らないって言うじゃない。

だから断って、それから病院も行かなかったのよね。そしたらこの頃、食欲がなくなってきて、お腹も張るようになって来たから心配になってね。

でも今さら病院を受診しても怒られるだろうし、怖いこと言われたら嫌だなって。それで悩んでたら、動画サイトですごくいいのを見つけたのよ。ほら、これ」

小百合は麻利衣にスマホで動画を見せた。そこには白い気功服に身を包んだ狐のような顔つきをした中年の男が映っており、

目の前の椅子に座っているマスキング加工された女性患者の前に立ち、太極拳のような動きを見せた後、右の掌を彼女の胸にかざして目を閉じ、気を送っているつもりなのか何かを念じているようだった。続いて女の声でナレーションが流れた。

「奇跡の超能力気功師、其田道郎――。彼の奇跡の手から流れ出す偉大な気は医師からも見放された末期癌患者を大勢救ってきました。

この女性はステージ4の肺腺癌で、手術、化学療法、放射線治療、免疫チェックポイント阻害薬とありとあらゆる治療に手を尽くしてきましたがいずれも効果なく、脳、骨、肝臓に転移を認め、医師から余命8か月の宣告を受けていました。

一縷の希望を託し、其田治療院を訪れたのが1週間前。1週間にわたる彼の超絶気功により、彼女の病状はみるみる改善。直後に病院を受診すると驚くべきことに、転移巣はすべて消失。それどころか原発巣さえ跡形もなく消え去っていたそうです」

ここで治療前後のCT画像が比較され、腫瘍が完全に消え去っていることが強調された。次にボイスチェンジャーで加工された女性のコメントが流れた。

「主治医の先生からももう何をしても無駄ですって見放されて、もうほんとにつらくて悲しくて、一度は命を諦めかけていました。

それが其田先生に治療していただいたら嘘みたいに体が軽くなって元気が出てきて、病院を受診したら転移だけでなくて、原発巣も完全に消えてるって、主治医は腰を抜かしていました。其田先生に命を与えていただいて、本当に感謝してもしきれないくらいです」

最後に再びナレーションが流れた。

「奇跡の手――其田超能力気功治療院。医者に見捨てられたあなたの命、救います。お問い合わせはホームページまで」

動画は其田がカメラに向かって掌をかざすところで終わっていた。