麻利衣は開いた口が塞がらなかった。
「まさかお母さん、これを受けてきたの?」
「そうなのよ。もう3日目なんだけどね。体が軽くなってすごく調子がいいのよ。やっぱりすごいのね、あの先生」
麻利衣は深い溜息をついた。
「こんなの詐欺に決まってるじゃない。どうして医者の妻が、医学生の母親が医学を信じられないの?」
「この世には科学では割り切れない不思議なことがいっぱいあるのよ。お父さんだって、精神科医のくせにずっと超能力を信じてたじゃない。お父さんはそれで騙されてしまったけど、其田先生の力は本物よ。一緒に通っている人達の中にも実際、末期癌が治ったって言う人が何人もいるんだから」
「どうして5年前に相談してくれなかったの?」
「だって、あなたは東京の医学部で勉強が忙しそうだったし、心配かけたくなかったのよ」
「あのね、癌も早期であれば手術で治癒する人もいっぱいいるのよ。
早期癌でも癌細胞は既に全身に播種していると主張する人もいるけど、播種した癌細胞も、その先の臓器のいくつかの条件が整わなければ、必ずしも転移巣として成長せずに死滅するの。
そんなことも分かっていない人が、分かったふりして正しい治療を妨害しているだけなの。
その頃に手術しておけば、きっと今頃何も心配しなくて済んだはず」
「手術するくらいなら死んだっていい。もう十分生きたわ。今は其田先生の治療に全て賭けているの」
「そこって、いくらかかるの?」
「100万」
「100万! ただの気功法で100万なんて完全に詐欺じゃない。今からでもキャンセルして、お金返してもらった方がいいよ」
「100万で命が助かるなら安いものよ。ほんとは300万って言われたんだけど、お金がないってお願いしたら100万でいいって」
麻利衣は再び深い溜息をついた。
「お母さん、とにかく病院に行こう。今、友人の千晶が消化器外科を研修で回っているところだから、そこで診てもらおう」
「え、やーよ。私、病院なんか嫌いなのよ。行きたくない」
「そんなわがまま言わないで。その気功法でほんとに癌が治るかどうか、病院で検査しなければ証明しようがないでしょ」
「まあ、それはそうだけど……」
「じゃあ、今から行こう」
「えっ、今から? これから浜離宮に行こうと思ってたんだけど」
「そんなのいつでも行けるから。さ、早く」
小百合はぶつくさ文句を言いながら、麻利衣に随ってカフェを出た。その様子を賽子は横目で静かに眺めていた。
次回更新は3月3日(火)、21時の予定です。
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