「やはりこうなったか」
二人が振り向くと、そこにはいつの間にか賽子が立っていた。
「賽子さん!」
賽子がドアに近づき、ドアノブに触れるとカチャリと音がしてドアが開いた。と同時に部屋の中から冷気が流れてくるのを麻利衣は感じ、怪訝に思った。
部屋の中は真っ暗で、灯りをつけると剛がベッド脇の床にうつ伏せで倒れ込んでいた。顔は土気色で口から泡を吹き、目は開いたままであらぬところを見つめているようだった。すぐに千晶が診察を始めた。
「心肺停止! 救急車を呼んで。AEDを!」
千晶はすぐに心臓マッサージを開始した。その時、大広間の柱時計がボーン、ボーンと0時を知らす鐘を鳴らし始めた。
「0時……待って、直美さんは?」
麻利衣は慌てて部屋を出て広間に向かったが、そこにはもう直美の姿はなく、慌てて走ってきた足立とぶつかりそうになった。
「何かありましたか? 直美様と剛様は?」
「剛さんは部屋で心肺停止です。すぐにAEDを持ってきてください」
「分かりました」
足立は顔を青くして踵を返し走っていった。麻利衣が広間の東側の直美の部屋に行き、鍵が掛かっていなかったのでドアを思い切り引き開けると、先程と同様、部屋の中から冷気が押し寄せてきた。部屋はライトがついており明るかった。直美はドアのすぐ近くの床にうつ伏せで転がっていた。
「直美さん!」
彼女は既に息をしておらず、脈も触れなかった。麻利衣は彼女の体を仰向けにし、心臓マッサージを開始した。その時、部屋の入口にひとみが現れた。
「直美さん……そんな……」
彼女は真っ青な顔で唇を震わせていた。その横からネグリジェ姿の貴子が顔を出した。
「直美!」
貴子は心臓マッサージをしている麻利衣を突き飛ばし、冷たくなった直美の体にすがりついた。
「直美、直美! ああ、誰がこんなことを……」
貴子が直美の体を強く抱きしめながら号泣するので、麻利衣はそれ以上救命処置を続けることができず、ただ呆然とするしかなかった。そこへ賽子がやってきた。
「やはりこちらも同じことになったか」
「こちらも? 剛! 剛は!」
貴子は直美の体を打ち捨てて、剛の部屋へ裸足で走った。彼の部屋ではまだ千晶が心臓マッサージを続けていた。貴子はその場に膝から崩れ落ちた。
「何てこと……」
「奥様、大丈夫ですか?」
足立が手助けしようとすると貴子はその手を払いのけた。
「触らないで! あー」
貴子の号泣に合わせるようにサイレンの音が近づいてきた。
次回更新は2月8日(日)、21時の予定です。
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