奥井は自分の喉を触った。透は入院以来、気管切開をして管(カニューレ)を挿入、気道を確保していた。そのため呼気が声帯を通らず、声が出ないのだ。

「頭で考えていることを言葉で伝えられないのは、すごくもどかしいんだと思います。でもそれは、裏を返せば回復して、自分の欲求を持てるようになったってことですよ。すごいじゃないですか」

「喋れなくても、私が息子の気持ちを察してあげられればいいんだけど……」

「お母さんはすごく頑張っていらっしゃいますよ。ご自分だってストレス溜まっているだろうに、透さんのフラストレーションに気づけるだけでもすごいなって僕は思います」

「お腹もすくらしくて。リハビリ頑張るでしょ? 今の食事量じゃ物足りないんじゃないかしら。量もそうだけど、口から食べたいみたい。口を通らないと、味覚が刺激されないからかしら。イチゴとかアイスとか、時々食べさせるんですけどね」

「お母さん、口から食べさせるのは、医師の許可をとってからにしてください。誤嚥(ごえん)は本当に怖いですから」

「はい……」

「自呼吸の訓練、まだ始められないのかな。ドクターは何かおっしゃっていませんか? スピーチカニューレっていうのがあって……」

「奥井!」

怒号が飛んだ。振り返ると、訓練を終えた透の装具を外し、車椅子に乗せていた広澤が、こちらを睨んでいる。

次回更新は1月16日(金)、14時の予定です。

 

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