最初はもう、ショックでショックで。でも透さんを見ていたら、なんか、すごいなーって。できなくてもやる、できるまでやる。
これって、すぐできることよりすごいって思い知らされて。負けられないっス。……俺、なんでも一番じゃないと気が済まないんで。この訓練室じゃ、透さんがライバルです」
透を見かけると、「先輩! チワーっす」といつも笑って挨拶する達也は、風船を使ったリハビリにも参加した。自分にとっては少し軽めの訓練とわかっていても、「肩にいいから」と透に合わせてやってくれる。
透も達也といると、優しい顔になった。口を開けて大きく笑うこともあった。自分を「先輩」として敬ってくれる人がいることが、透にどれだけの自信を与えてくれているか。まさ子はありがたかった。
とはいえ、長く立位を保てない状態からなかなか抜け出せないことに、透自身も焦りを感じ始めていた。最近は気に入らないことがあると、たまにヒステリーを起こし、まさ子に八つ当たりすることもある。
本人にまさ子を傷つける意思はさらさらないが、「要らない」「イヤだ」を示すために振り払った透の腕は、時にまさ子の顔を直撃した。リハビリで順調に筋力をつけていることもあり存外に逞しく、二十歳の青年の力の前で、まさ子は無力だ。
制することもできず、優しく包み込んでやることもできない。自分の息子、それも病気の息子に対し、一瞬でも「こわい」と思う自分が情けなかった。
(小さい子どもとは違う。全くの寝たきりとも違う。自分の体を自分の意思で動かせない大人の肉体を持つ透を、私はどうやって世話していけばいいんだろう……)
そのことを奥井に相談してみた。
「透さんからすれば、無理もないですよね。喋ることができない。ここにカニューレつけたままですからね」