妻の背後から声を掛けると小さな背中が面白いように跳ね上がる。
「え、あ、あなた。どうしてここに?」
「どうしたもこうしたも、気が付いたらここにいた。正確には連れて来られたんだがな」
「連れて来られたって誰に?」
「説明すると長くなるんだが……ただひとつ言えるのは、俺とアイツが会うことは二度とないってことくらいだな」
「は、はぁ……よく分からないわ」
そうだろう。俺だって分からない。
「涼子、どこか痛むところはないか?」
「ううん、平気よ。どうして?」
「自分の身に何が起きたのか知らないのか?」
訊ねると涼子は思案顔になって顎に手を当てた。面と向かって言ったことはないが俺はそんな風に考え事をする仕草も好きだったんだ。愛している人の仕草ってのはどれもこれも好きなもんだ。俺がタバコを吸う時の手の形を好きだと言ってくれた涼子のように。
「ダメ。全然分からない。ここがどこなのかも、なーんにも」
どことなく幼さを彷彿とさせる口調は童顔の涼子によく似合っている。そうだったな。お前は四捨五入しても四十歳にならないくらい若いんだ。
「あなたのタバコを買いに行こうとしてたところまではなんとなく分かるんだけど、そこからの記憶がないの。どこか痛むかって私、事故にでも遭った?」
「いや、いい。気にしないでくれ」