【前回の記事を読む】「ドリアン記念日」期待は裏切られたと思ったのに…舌の上で味覚の交響曲が鳴りはじめる

【第一章】食を巡る冒険

我がドリアン記念日

ほろ苦く終わったドリアン初体験後、長い間、美味しいとも感じることのないまま、これもお付き合いと諦観しながらも、仕方なくドリアンを口にしてきたことが幸いしたのでしょう。そのとき初めて、ドリアンの本当の味というものに出会うことができたと確信しました。

その摩訶不思議ともいえる個人的体験を通して、その異形、なんとも形容し難い甘いクリームのような味、慣れるに従い香りとさえ感じるようになった独自の匂い、それらを含めた全体こそが、まさにドリアン独自の魅力であり、果物の王様と呼ばれる所以ではないかということを悟った瞬間でした。

そうです、その日こそが私にとってのドリアン記念日だったのです。その日以来、ドリアンに対する私の評価は、百八十度変わっていました。

余談ですが、その際に食したドリアンは、ガーン・ヤオ(柄が長いという意味)という種類でした。ガーン・ヤオは、ドリアン独特の発酵食品のような匂いがほとんどなく、甘い香りが漂い、味自体もふくよかなクリームのような深い味わいで否応なしに美味しいと感じたのです。

なお、ドリアンにはある意味アクの強さがあることは否定できません。

「アク」の強さといえば、最近たまたま読む機会のあった故志村けんさんの書いた『志村流』(王様文庫)のなかに面白い表現を見つけました。

三十半ばを過ぎて、一通りうまい酒が飲める状況になると、今度はもっといい酒飲みたいなぁっていう気持ちがどこからともなくわいてきて、高価な酒へと手が伸びる。その高い酒も、ほとんど飲みつくしたら、今度は、そのなかでもクセのある、アクの強い酒へと移っていく。

けんさんのご指摘ごもっとも。私自身も酒の肴(さかな)に関して言わせてもらうならば、あっさり系よりは、東北地方の海鞘(ほや)や、八丈島の飛魚を発酵させたクサヤの干物、そしてブルー・チーズやキムチなどの匂いの強い発酵食品が、体に馴染んでいくほどにそのクセのある強さが癖になり、馬齢を重ねるにつれ、その深くて絶妙な味わいを楽しめるようになっています。