医事法判例百選第3版、「事例2異状死体の届出義務」には、
「医師法第21条の異状死体届出義務の前提となる死体の『検案』は、『医師が死因等を判定するために死体の外表を検査すること』であり、死体が発見されるに至ったいきさつ、死体発見場所、状況等諸般の事情は一切関係なく、外表に異状がある場合のみを医師法第21条に定める異状死体の届出義務の対象とすることが明確になった」
と明記されている。
医師法第21条にいう「異状死体」は死体の「外表異状」によることが確定しているのである。
(7)本章のおわりに
医療界に激震をもたらした医師法第21条問題は、医療事故調査制度と並行して解決に至った。司法的にも行政的にも、さらに関係専門家のコンセンサスとしても解決したのである。
医師法第21条問題は、法律条文の解釈論の問題であり、臨床医の問題である。医師法第21条が求めているのは「異状死体」の届出である。すなわち、検案して、外表面に異状のある死体の届出義務である。
厚労省が死亡診断書(死体検案書)記入マニュアルに「異状死ガイドライン等参考」の文字を入れたことも大きな問題であったが、厚労省は、2015年版死亡診断書(死体検案書)記入マニュアルで、この文字を削除した。
現在、厚労省は、法医学会異状死ガイドラインは一学会の見解に過ぎないことを明言し、医師法第21条の「異状死体」の判断基準は「外表異状」によることを明確にしている。東京都立広尾病院事件の最高裁判決では【要旨1】を重視する考え方が定着した。
誤った理解で警察捜査の対象とならないためにも、医師法第21条は、「異状死」ではなく、「異状死体」の届出義務であることを認識しておくことが、臨床医にとって必要なことといえるであろう。
なお、2024年(令和6年)3月28日、厚労省は令和6年度版死亡診断書(死体検案書)記入マニュアルにおいて、死亡診断又は死体検案に際して、死体に異状が認められない場合は、所轄警察署に届け出る必要がない旨を明記した。
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