【前回の記事を読む】「医師法第21条」は“異状死”の報告義務ではない——誤解が医療現場に混乱をもたらした真実
第1章 医師法第21条(異状死体等の届出義務)について
―医師法第21条は、異状死の届出義務ではない―
(5)東京都立広尾病院事件最高裁判決
最高裁判決の要旨をまとめると、「①医師法第21条にいう死体の『検案』とは、医師が死因等を判定するために死体の外表を検査することである。②これは当該死体が自己の診療していた患者のものであるか否かに関係はない。
③右記①②を前提とすれば、死体を検案して異状を認めた医師に課された、医師法第21条の届出義務は、『単に、異状死体があったということのみの届出であり、自己と死体との関連等を届け出る義務はない』のであるから、医師法第21条の規定は憲法第38条1項(自己負罪拒否特権)に抵触しない」ということである。異状の判断は「外表異状」によるということである。
本最高裁判決【要旨1】後段では、前記②に述べたように医師法第21条は自己が診療していた患者にも及ぶとしているのである。医師法第21条で刑事罰に問われないためにも臨床医こそが医師法第21条の解釈に精通している必要があるであろう。
(6)最高裁判決解釈確定に向けた活動成果
2012年10月26日、第8回医療事故に係る調査の仕組み等のあり方に関する検討部会で、厚労省医政局田原克志医事課長が、「異状死体」は、死体の外表を見て判断するものであると発言し、2014年3月8日、鹿児島市で開催された医療を守る法律研究会講演会で、大坪寛子医療安全推進室長が、医師法第21条による届出は、「外表異状」によると発言した。
また、同年6月10日、参議院厚生労働委員会において、田村憲久厚生労働大臣が、小池晃議員の質問に答えて、医師法第21条は「外表異状」によることを明言した。
その後、一時混乱はあったが、2019年3月13日、衆議院厚労委員会での橋本岳議員質問、3月14日の参議院厚労委員会での足立信也議員質問、3月19日衆議院厚労委員会での国光あやの議員の質問があり、吉田学厚労省医政局長が、それまでの厚労省の「外表異状」の見解を確認するとともに、法医学会異状死ガイドラインは、一学会の見解に過ぎないことを明言し、「厚労省が診療関連死について届け出るべきと言ったことはない」ということを再確認した。
厚労省は筆者ら一般社団法人医療法務研究協会の見解を採用、同年4月24日付け厚生労働省医政局医事課事務連絡を発出し、直ちに、「平成31年度版死亡診断書(死体検案書)記入マニュアル」追補版を出した。
2022年7月には、医療法学の教科書的存在である『医事法判例百選第3版』(甲斐克則、手島豊編、有斐閣、2022)で、拙著が引用され、筆者の見解が全面的に取り入れられた。