「四天王」と倦怠感
ヴィクトリア朝古典主義の大家たちとの間にある、さらに重要な違いも見過ごすことはできない。それはレイトンやアルマ=タデマの作品に蔓延する倦怠感の表出が、ウォッツにはないということである。
ウォッツには、生には死が内在するために、生がその端緒から死に魅入られているという認識がある。たとえば『無垢の有終の美を飾る死』Death Crowning Innocence(1886-7)や『愛と死』Love and Death(c.1885-7)は、この認識に基づいて死と生の寓意的な関係を表現した作品である。
このような違いを通してウォッツを見れば、対照的に、レイトンとアルマ=タデマの共通性がより強いことが明瞭になってくる。
かすかなエロティシズムを倦怠感とともに漂わせる女性像を共通項とすれば、ポインターも、ウォーターハウスやムーアも、この二人の側に位置することは一目瞭然となる。この点で、ウォッツ一人が異質である。
著名人との親交
同時代の名士たちとの交流は、作家ヴァージニア・ウルフVirginia Woolf(1882-1941)との親交を通して広がった。
ウォッツはウルフの祖母にあたるサラ・プリンセップ Sarah Prinsepの歓待に甘えて、ハイドパークの西に位置する高級住宅街ホランド・パーク周辺にあったプリンセップ家に長く居候していたという事実がある。
ここでレイトン卿とも隣近所の付き合いをし、またプリンセップ家の客の中にいた当代きっての文人たち、就中テニソンやラスキンらと親しく交わる機会を得た。
サラの姉は女性写真家の草分けジュリア・キャメロン Julia Cameronであったが、この女性写真家夫妻はワイト島のフレッシュウォーター近辺に移住し、テニソンもまた1853年以降晩年までワイト島に居を構えていた。
ウォッツは1864年に、後に英国演劇界を代表する大女優となるエレン・テリーEllen Terryと結婚していた。二人はキャメロン家の客としてこの島に滞在したことがあったのである。
後年小説家ウルフはこの大伯母の別荘での出来事を伝聞から想像して戯曲を書いた。
それが笑劇(ファース)Freshwater: A Comedy(1923)である。