【前回記事を読む】豊満な肉付きで、あけっぴろげな所作。エロティシズムとは無縁の「恥じらいをまだ知らないあどけなさ」を紐解く。

第二章 「四天王」比較論からバロックへ

「四天王」と妖艶さ

それよりも気になるのは、レイトンとウォッツとを同じ「高貴、心に響く、知的」という形容で一つに束ねることである。私にはレイトンとウォッツの間にある違いが無視できない。

レイトンの描く人体のもつ生気を吹き込まれた人形のような、なめらかで柔らかく、しかも肉感性の半歩手前で止まる優美な上品さがウォッツにはないのである。

優美な人体表現はフランスの画家ジャン=レオン・ジェローム Jean-Léon Gérôme(1824-1904)たちの新ギリシャ派に近いヴィクトリア朝古典主義の特徴である。

これに対してウォッツの絵筆から生まれた女性の人体表現は二つのタイプに分かれはするが、いずれも妖艶さは少ないし、また優美さや上品さも感じられない。レイトンの絵が常に失わない艶のようなものを、ウォッツの絵はもたないということである。