第一章 青天霹靂 あと377日
二〇一五年
十二月二十五日(金)
部屋へ行くと、ベッドに横坐りしていた母がサッとこちらを振り向き、「おかえり」と、親を待ちわびた幼子のように声を弾ませた。「今日は具合が良いみたいだね……」と、声をかければ、「うん、今日は具合いいよ……」と、ニコニコ笑う。
「毎日、違うのかい……」と、聞けば、「うん、毎日、違うねぇー」と、縫いぐるみと戯れる。ポータブルのカラオケ機を持ってきたので、「四階のホールで少し歌おうか……」と、言えば、「うん、行こう行こう……」と、花をつみにいく誘いを受けた少女のようにはじける笑顔を見せた。
十二月二十七日(日)
母を励ますため、パソコンに何週間もかかりきり、母の半生の写真集を作り上げた。タイトルを「ヨッちゃんの想い出アルバム」とし、古い写真も含め、一枚一枚にコメントを付けた。
私が子供だったころ、母がそうしてくれたように。なにしろ、母がちゃんと文字を読めるうちに間に合って良かった。
母は物言わず目を瞬き、下を向いて顔を上げない……。しばらく沈黙の後、共に遠い昔の記憶を辿り、ページをくりながら母の情操を促した。
十二月二十八日(月)
今日は言葉の調子が悪いらしく、なかなか喋ることが出来ずにもどかしげだ。クリスマスコンサートから五日、早くもその効用が薄れてきたのだろうか。心配だ……。