第一章 青天霹靂 あと377日

二〇一五年

十二月二十二日(火)

今日はリハビリの日だ。理学療法士の小松さんには、何かで入院するたびに、ずっと前から世話になっているらしい。

握力は両手とも充分に強い。それで心強く思っていたところが、そのぶん、開く力が極端に鈍くなってきており、特に右手は握ったきり開く・離すという事がとても困難である。

それは肘・膝・股関節の曲げ伸ばしも同様で、この病気に限らず、とかく年寄りは閉じるより開く力の方が衰えがちになるので、「握って……、開いて……」と、声をかけながら根気よく訓練するよう教えられた。

十二月二十三日(水)

昼過ぎ、「病院でコンサートやるんだって、連れてって……」と、興奮した声で電話があった。院内レクリエーションで“クリスマスコンサート”を催すのだそうだ。

それが、この日の主役、増澤さんとの初対面であった。ところが、母は先(せん)より見知っていたらしく、どこかのカラオケ大会で何度かお目にかかっているようだ。増澤さんはプロの歌手ではないが、音楽審査員という肩書きを持ち、この界隈では“歌の上手いおじさん”として有名らしい。