第一章 青天霹靂 あと377日
二〇一五年
十二月十八日(金)
最近、“スーパードクター”とか“ゴッドハンド”といった言葉をよく耳にする。それで、駄目元でネット検索をし、母の事を相談するべくある二人の医師にメールを送ってみた。
まさにワラをも掴む思いであった。けれど、待てど暮らせど、どちらも梨のつぶてで催促も詮無く虚しい。
兄が医療機器メーカーに勤めている関係上、薬についての情報も多少入ってくる。それで、兄に言われた単語をもとに、またまたネット検索……。
「フコイダン」「フコキサンチン」「マグジサリシレート」……。いずれも、昆布などの海藻から抽出される成分から出来ているらしい。確かに、自然の力はまだまだ計り知れないという事は分かるが、あまりに多くのメーカーがある上、それぞれに処方や能書きが違い選択に困ってしまった。
それで思い出したのは、元化学者という異色の経歴を持ちながら、今は安曇野の森で芸術家をしている北山さんの事だ。さっそく相談に行くと、快く難解な話を延々としてくださった。
結局、無学の私に理解できたのは、かつて北山さんは、フコイダンの研究のためにアメリカまで渡った経験があるという事と、彼の母上がガンになった十数年前より、一家皆でそれを愛飲しているが調子は良いらしいという事実だけだった。
けれど、信頼に足る人の言葉を疑う理由はなく、北山さんは、「ちょうど買い置きがあるから、お見舞いの気持ちとして一本さしあげましょう……」と、それなりに高価であろう液体フコイダンを私の手に持たせてくれた。