二 余所者

「祐一、そこで待ってて」

「分かった……」

母さんに生返事をしたおれは、孤島の端にある桟橋に立った。そして、ごみの城を見上げて絶句した。

ここが本島から隔離された島。本島で生きられない流れ者たちの終着点。ここにはここだけの文明があり、それを知ることは地獄と同等だと聞いていた。だけど、噂ほど大きな島じゃない。ただ、島からはみ出そうなほど密集した高層住宅の群れ。それは、想像以上に圧巻で迫力があり、おれなんかが入り込めるのだろうかと、恐怖すら感じた。

「すげえ」と、言うしかなかった。

恐らく何百という棟が隙間なく繋がり、樹海のように生い茂っている。饐(す)えた潮風に晒されたそれは、不規則に塗り固められた増築の繋ぎ目と共に小波(さざなみ)の色彩を放っていた。さながら秩序のないブロック遊びにも見える。

おまけに柵に覆われたバルコニーが印象的で、そこにはためく洗濯物が畏怖すら抱く高層住宅に味わいを添えていた。

おれが興味を持ったのは上層階と下層階の格差だった。屋上には時代錯誤の文明を象徴するアンテナ。下層のバラックには店看板のごった煮。饅頭、乾物、食堂、金物、視界に収まりきらない長屋はどこか懐かしく、戦後の過渡期を思わせた。

これが巨大コミュニティーの礎、噂の闇市だ。本島の連中はこぞって馬鹿にしていたけれど、内心はどこか羨ましい気持ちもあったはずだ。祭りの露店に心躍る遺伝子。それを持ったおれたちが、泥臭い生命力に高揚しないはずはない。

その一角にある不動産屋で話し込んでいる母。相手は本島からの移住者専門業者だという。硝子越しでも分かるほどの胡散臭さだけれど、それを承知で居場所を求めるのだから、おれたちもどうかしている。

海鳥が鳴いた。こうしていると昨夜まで本島にいたのが嘘のようだった。持てるだけの荷物を持って、身一つで夜逃げしてきたおれたち。受け入れてくれる場所があるだけ幸せだと母さんは言っていたけど、そんなに単純なものだろうか。このごみの城を目の当たりにした今でも、同じ気持ちでいるのかな。

「ようこそ、坊ちゃん」