さはさりながらも、タイにおける語学研修生活を続けている間に、お付き合いという浮世の義理を果たしていくなかで、実際は嫌々ながらも、ドリアンに突撃せざるを得ない状況が何度も出てきてしまったのです。
ドリアン初体験がきわめてほろ苦く終わったせいなのでしょう。ドリアンを食せざるを得ない機会が訪れる度に、ほとんど投げやりな態度でドリアンを口に運ぶ私がいました。
そのような、ある意味試練とも呼べるような機会を幾度となく体験してきたお陰だったのでしょう。な、なんと私自身にも、遂に「ドリアン記念日」と呼べる日がやってきたのです。
それは、私の下宿先によく遊びにきていたタイ内務省高官の豪邸での昼食会に、下宿先の家族と共に招待されたときのことでした。非常に洗練された美味しいタイ料理のご馳走のあとのことでした。豪邸内のダイニング・テーブルの上に大ぶりなドリアンがドカーンと置かれたのです。
周りの人たちの表情を覗き見てみますと、それぞれが大変嬉しそうな表情をしていましたが、そこには、狼狽(うろ)たえていた私がいました。勧められるままに、「エーッ、またなの」との無言の言葉を発しながらも、しぶしぶとドリアンの果肉を口に入れてみたときのことでした。
なんとも表現できないような魔訶不思議ともいえる味覚の交響曲が、私の舌の上で鳴りはじめていたのです。これまでに体験したことのないような、なんともいえない味覚。ほんのりとした甘い香りにつつまれた優しいクリームのような甘味が私の舌を包み込んでいたのです。これまでの人生ではまったく感じたことのない優しく、かつ、奥深い味でした。
「オーッ! これがそうなのか。そうだったのだ。これなのだ! これが、ドリアンの真の味なのだ! 果物の王様とはまさしくこの味のことなのだ!」と心のなかで叫んでいたのです。
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